「なぜ処罰されるの?」 ~公共的な視点を養う刑事法学~
すべての悪い行いが処罰されるわけではない
多くの人は、「悪いことをしたら処罰されるのが当たり前だ」と思っています。しかし、犯罪として処罰する時には、必ず根拠が必要です。そのため、犯罪になる行為は何か、刑罰の種類や程度と合わせて定めている法律が「刑法」です。殺人や傷害、窃盗などが処罰の対象となるのは、人にとって大事な利益を侵害する行為だからです。一方、誰かの利益を損なう恐れがないのであれば、たとえ悪い行いだとしても、処罰すべきではないと考えられています。
人の思想は処罰されるのか?
例えば、人の思想は処罰されるでしょうか。この点については、反社会的なことをいくら考えても、考えるだけでは処罰の対象になりません。人が何を思っているかを確かめる術はなく、危険思想だと決めつけて取り締まる行為は、一部の人にとって不都合な人を排除することになりかねません。しかし殺人を計画して凶器を準備し、相手のもとへ向かっている、など具体的な行動を起こした場合は、誰かの利益を損なおうとしていることが明らかなので処罰できると法律で定められています。
常識を問い直す
犯人に「責任能力」がないと判断されると、人をナイフで刺して死亡させたような場合でも、罪に問われません。刑法では、その人の「せい」だったといえない限り、犯罪が成立しないと考えられているからです。しかしこの刑法の原則は、しばしば実際の市民感情との間でズレが生じます。なぜ処罰されるのか、また処罰されないのかを考えれば、私たちの常識を問い直すことにつながるでしょう。
刑罰は国家が国民に行使できる最も強力な権力です。だからこそ厳密な議論が必要で、いかに適正に行使できているか、吟味しなければなりません。また刑事法学では、心理学や社会学など経験科学の知見を踏まえた、学際的な研究も行われています。公共的な視点を養う意味でも、有意義な学問だといえます。
※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。
※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。
先生情報 / 大学情報
一橋大学 法学部 法律学科 教授 本庄 武 先生
興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!
刑事法学先生への質問
- 先生の学問へのきっかけは?
- 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?