進化する抗がん剤~がん治療における薬剤師の役割とは?~
劇的に進化した抗がん剤治療
抗がん剤によるがん治療は約20年間で劇的に進化しました。新しい薬の登場や複数の抗がん剤を組み合わせた併用療法の開発により、全生存期間(治療後の生存期間)の中央値は、胃がんでは3~5カ月だったものが13カ月に、大腸がんでは6~7カ月が約30カ月にまで伸びています。抗がん剤は、従来の正常な細胞にも作用してしまう殺細胞薬に加えて、分子標的薬と呼ばれる新しい種類の薬が次々に登場しています。
分子標的薬の利点と落とし穴
分子標的薬とは、正常な細胞とがん細胞の違いを遺伝子・分子レベルで解析し、がん細胞に発現していたり、がんの増殖や悪性化に影響したりしている特定の分子を「標的」として作られた薬です。特定の分子を持つ細胞を狙い撃ちにできるため、殺細胞薬と比べて副作用の白血球減少、吐き気、脱毛が少ないことが特長です。これまでに約60種類もの分子標的薬が開発されていますが、その一方で、がん細胞に耐性が生じることで薬が効かなくなったり、これまでの抗がん剤では見られなかった副作用が出現したりすることがあります。また、こうした薬は非常に高価で、患者さんの負担はその一部のみですが、1度の点滴で何十万円もかかるものが多いことも現時点での課題となっています。
抗がん剤治療の「益」と「害」のバランス
抗がん剤による治療は、必ずしもがんを完治させることを目標に行うものではありません。手術の後に行う抗がん剤治療は、残ったがん細胞をたたく目的で行われますが、手術できないがんに行う場合は、患者さんの生存期間を伸ばすことや症状をやわらげることが主な目的です。抗がん剤による治療は、このような目的から「益」と「害」のバランスをよく検討した上で実施する必要があります。また、副作用にもさまざまなものがあるので、医師と薬剤師による患者さんへの丁寧な説明と指導が不可欠です。目的に応じた適切な投与量や使用方法、副作用などの「情報」を患者さんに提供することが、薬剤師が果たすべき重要な役割のひとつです。
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帝京大学 薬学部 薬学科 教授 板垣 文雄 先生
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