「逆上がりができない子は鉄棒が苦手な子」というのは本当?
鉄棒で連想するのは逆上がり?
「鉄棒運動の中で、自分に子どもがいた場合に習得させたい技は?」と聞くと、日本人の多くの人が「逆上がり」と答えるのではないでしょうか。小学校で逆上がりのできない子は、鉄棒が苦手とみなされてしまいがちです。しかし、そもそも逆上がりという技は、学習指導要領では小学5年生から習うものと位置付けられています。小学4年生までに逆上がりがうまくできなかったとしても、何一つ、おかしなことなどないのです。
しかも逆上がりという技は、鉄棒の技を形成していく際の流れからはやや外れていて、ほかの技を習得したほうが違う技に応用しやすいと考えられます。なぜ私たちは、「逆上がりができない子は鉄棒が苦手な子」と思い込んでしまっているのでしょうか?
組織文化のピラミッドから考える
アメリカの心理学者エドガー・シャインは、人間社会の組織文化にはピラミッド的な構造が存在する、と指摘しています。ピラミッドの一番上にあるのは具体的に目に見える行動(逆上がりを教える、教わる、など)、その下にあるのが指導観(小学生は逆上がりを習うもの、など)や価値観で、これらは指導者も教わる側も自覚できる領域です。その下には無自覚的な層として、私たちの中にある基本的な前提認識(小学生は逆上がりができるべき、逆上がりができない子は鉄棒が苦手な子、など)が存在しています。鉄棒運動の場合、この前提認識は、日本固有の体育に対する見方や雰囲気によって形成されたものと考えられます。
今持っている価値観を疑ってみる
こうした無自覚の前提認識に影響された指導観による体育指導は、場合によっては、合理的な裏付けに欠ける内容になってしまいがちです。日本の社会の中で生まれ育つうちに、いつのまにか当たり前と思い込んでいたことを一度疑ってみることが大切です。
目の前にいる子どもたちにとって何が必要なのかといった本質的なことを考え、よりよい教育を実現できる環境を作り上げていくなど、これからの体育教育には、そうした新しい風が必要とされているのです。
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先生情報 / 大学情報
帝京大学 教育学部 初等教育学科 初等教育コース 教授 成家 篤史 先生
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