物質を分解する酵素タンパク質を超伝導磁石で徹底分析!
物質ごとに「鍵」と「鍵穴」は決まっている
酵素はタンパク質でできていて、体の中の化学反応に触媒として作用します。食べたものの栄養素を吸収するために分解、有毒な物質なら、それを分解し排除します。酵素は体内に数千種類存在し、分解対象となる物質ごとに「鍵穴」と「鍵」のような対になる酵素が決まっています。糖質を分解するには、糖質分解専用の酵素が必要なのです。
物質を分解するとき、その物質にくっつくのが酵素を構成しているタンパク質(酵素タンパク質)です。この酵素タンパク質の立体構造や動きを知り、鍵と鍵穴の組み合わせを解明すれば、タンパク質の働きを制御することが可能になります。
超伝導磁石で分子構造を解析する
酵素タンパク質の形を見る方法の1つがNMR(核磁気共鳴)です。原理は病院の検査で使われるMRI(磁気共鳴画像)と同じで、超伝導を利用した大型の磁石を用いて物質の分子構造を原子レベルで解析する装置です。この解析の特徴は、電子顕微鏡よりも小さな分子に使え、X線結晶構造解析よりも分子の動きや変化を細かく分析できることです。特にアミド基よりも信号の強いメチル基を解析することで、個々の分子の距離情報や結合の様子、またほかの物質がどこにどうくっついているのかなど、詳細なデータが得られます。
薬を開発する基礎研究としての重要性
グリセルアルデヒド3-リン酸脱水素酵素(GAPDH)という酵素があります。ブドウ糖の代謝を担う重要な酵素で、近年、新たにアルツハイマー病やパーキンソン病の原因に関わることが判明しました。いろいろなものをペタペタとくっつける働きを持ち、ウイルスの一部なども結合してしまいます。そこでNMRによってウイルスがタンパク質の立体構造のどこに、どんなふうに結合しているのかを調べ、その結合をピンポイントで切り離すにはどういう物質で反応させればよいのかなどを分析することで、有効な薬の開発につながります。NMRによる酵素タンパク質の解析は、創薬に欠かせない基礎研究なのです。
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先生情報 / 大学情報
横浜市立大学 理学部 理学科 教授 池上 貴久 先生
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