「オレンジ色の猫」から言語の多様性と普遍性が見えてくる!?
orange catはどんな猫?
英語の小説の訳書に「オレンジ色の猫」という表現がありました。疑問に思った言語学者の鈴木孝夫先生が調べてみたところ、スペクトルの中でorangeと「オレンジ色」が指せる範囲は、中心では重なっているものの、全体として合致しているわけではないことがわかりました。orange catは、<オレンジ色の猫>ではなく、<明るい茶色の猫>だったのです。
迷惑を表す受動態は日本語の個性
文法における受動態も同様で、「太郎は花子に叱られた」のように、どんな言語の受動態でも表現できる範囲もあれば、「太郎は花子に泣かれた」のように、一部の言語でしか受動態で表現できない範囲もあります。
受動態とは本来、主語が動詞の表す行為によって影響を受ける、という意味を表します。「太郎は花子に叱られた」の場合、対応する能動態の文「花子は太郎を叱った」も「太郎」が影響を受けたという意味を含んでいます。しかし、「太郎は花子に泣かれた」という文に対応する能動態の文「花子は泣いた」には太郎はそもそも登場しません。「太郎は花子に泣かれた」の意味に含まれる太郎が受けた影響とは、花子が泣いているところに居合わせた太郎が経験した迷惑感だと考えられます。このような迷惑感を受動態で表すことができるのは日本語の個性だといえます。
文法は自由な言語表現を可能にする
言語の使用を可能にする知識は、語彙(ごい)と文法に分けることができます。語彙の単位を言語学では「語彙項目」といい、「それぞれの言語の丸ごと覚えなければならない表現の単位」を指します。しかし、単独の語彙項目(「犬」、「猫」など)だけでは伝えたいことを自由に表現することができないため、複数の語彙項目を組み合わせて新しい文(例えば、「犬が猫を追いかけていた」)を作り、理解することを可能にする仕組みとしての文法が必要になります。「認知言語学」ではその文法の知識の単位(名詞、動詞、主語、二重目的語構文など)自体にもそれぞれ意味があると考えています。
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先生情報 / 大学情報
東京大学 文学部 人文学科 教授 西村 義樹 先生
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