言葉は文化によるもの? 本能によるもの?
「とんせくあ」のアクセントはどこ?
「とんせくあ」という言葉を発音してみてください。たいていの人は、アクセントが「せ」のところにくる読み方をすると思います。初めて見る言葉なのに、自然とアクセントが決まってくるのは、日本語では後ろから3つ目の音にアクセントが来るという原則があるためです。アクセントは、実はいろいろな言語である程度共通した原則に則っており、生理的な条件と密接に関わっていることが知られています。その意味で、言葉を話すことはヒトの本能に根差す行為だと言えるでしょう。
文化によって違う、女性名詞と男性名詞
では、言語というものは本能として人間に備わっているのでしょうか? そうとも言い切れません。
ドイツ語やフランス語などには、文法的な性の区別(ジェンダー)があり、本来は性を持たないものの名前についても、女性か男性かが決まっています。例えばドイツ語では、「月」は男性名詞、「太陽」は女性名詞です。このため、ドイツ語で「月」を指すときには「彼」を指す代名詞を使います。ところが、フランス語では逆で、「月」が女性名詞、「太陽」が男性名詞です。こうした違いを見ると、言語の決まりは習慣的・文化的なものだと思えます。
ドイツ語から生まれた音楽
言語学の世界では、言語とは本能的な(自然の)ものなのか、文化的(人為的)なものなのか、という議論が長年繰り返されてきました。現在でもこの議論には決着が着いておらず、言語における本能と文化の関係に注目が集まっています。
面白いことにドイツでは、ドイツ語のアクセントによって形作られるリズム感が、ドイツ歌曲や楽劇といった大きなジャンルを生み出す礎になりました。イタリアから運ばれて来た音楽の種は、ドイツで花開いたのです。このように、言語はときに新しい文化を作ったり、文化と文化の橋渡しをしたりします。生物の一種としての「ヒト」と、文化や歴史の担い手としての「人」、この2つの存在をつなぐものが言語なのです。
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東京外国語大学 言語文化学部 言語文化学科 教授 藤縄 康弘 先生
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