海藻間の生存競争によって生じる種の多様性と進化
未知の種がたくさんある海藻
「海藻」と聞けば、多くの人はワカメや昆布をイメージするでしょうが、実際は分類群によって色や形がさまざまで、世界で1万種近くが知られています。しかし海藻の多くは単純な形をしていて、時には環境によって形が変化することもあるため、種の分類や同定が難しいのです。交雑実験やDNA分析などにより、同じ種に分類されていても遺伝的に異なる「隠れた種」がたくさんあることがわかっており、それを種として認めるべきか議論されています。新しい環境にどのように適応し、種が分化するのかなど、海藻の生物多様性を解き明かす研究が進められています。
環境に適応して生き延びる
移動できない海藻は自分の生育に適した場所を確保するため、種間・種内で激しい生存競争を展開しています。例えば水深の浅い場所に生育する海藻は、乾燥や強い光などのストレスに耐性があるため、浅所では有利ですが、少し深いところではほかの海藻に負けてしまいます。満潮のときは海中、干潮のときは陸地となる潮間帯(ちょうかんたい)は水深によって環境が大きく変わるため、それぞれの環境に適応した海藻や動物が暮らしており、潮間帯の生物多様性は熱帯雨林に匹敵するとも言われています。生物の多様性を研究するためには、その生育環境を知ることがとても重要なのです。
海藻が繰り広げる驚きの生存競争
生育に適した場所に根付けなかった海藻は、ほかの大きい海藻などに付着して生き延びようとする場合があります。しかし、付着される側にとっては成長の邪魔になるため、何らかの方法でほかの海藻を寄せ付けないようにしています。このような作用を「アレロパシー」と呼びますが、防御方法は種によって異なっており、未解明な点がたくさんあります。動き回れない海藻だからこそ、その環境の変化を受け入れざるを得ず、ほかの生物や海藻同士の厳しい生存競争を繰り返しながら進化を続けています。その生存戦略や進化プロセスは非常に複雑で奥が深く、知られざる海藻の世界には不思議が満ちあふれているのです。
参考資料
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東京海洋大学 海洋資源環境学部 海洋環境科学科 教授 神谷 充伸 先生
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