発電所からの排ガスで海ブドウを育てる、新たな二酸化炭素の削減策

発電所からの排ガスで海ブドウを育てる、新たな二酸化炭素の削減策

火力発電所から出る大量の二酸化炭素

現在、地球温暖化が進んでいますが、その原因の一つは、大気中の二酸化炭素量の増加だと言われています。二酸化炭素は自動車や工場、家庭などから大気中に排出されていますが、最も多く排出しているのは、火力発電所です。その量は、日本国内の二酸化炭素排出量の約半分を占めるほどです。国や企業がさまざまな方法で二酸化炭素排出量の削減に取り組んでいる現在、この火力発電所から出る大量の二酸化炭素に着目し、これを一気に回収して海藻の養殖やバイオ燃料の生成に活用しようという研究が行われています。

海藻に二酸化炭素を固定化させる

二酸化炭素を回収するには、まず火力発電所から出る排ガスをボンベに詰め、そこに専門に開発された装置を使って海水を霧状に吹きかけます。二酸化炭素は水に溶けやすい性質を持っているので、海水中に二酸化炭素が溶けこみ、炭酸水のような海水ができあがります。このままでは、二酸化炭素が徐々に抜けてしまいますが、これを海ブドウなどの海藻を養殖する水槽に入れることで、海藻が光合成を行うために二酸化炭素を消費し、二酸化炭素は海藻に吸収(固定化)されます。また、濃度の高い二酸化炭素を与えることで海藻の成長スピードや品質が高まりますし、収穫量がより増えれば、将来はバイオ燃料の材料にすることも可能になります。

物質移動の仕組みを応用

この研究においては、工学分野における「熱・物質移動」という仕組みが応用されています。私たちが扇風機にあたると涼しくなるのは、体の表面から熱が外に移動しているからです。熱と同じように物質も、空気や水の流れによって、別の場所へと移動する性質を備えており、二酸化炭素も海水の流れに乗って海藻へと移動し、そこで海藻の中に吸収されていくのです。
最新の研究では、AI(人工知能)や情報通信といった技術を組み合わせながら、この海水の流れの強さや方向を細かく検証し、物質移動の効率をより高めて、海藻が二酸化炭素を固定化しやすくする試みがなされています。

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先生情報 / 大学情報

琉球大学 工学部 工学科 エネルギー環境工学コース 教授 瀬名波 出 先生

琉球大学 工学部 工学科 エネルギー環境工学コース 教授 瀬名波 出 先生

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熱力学、熱物質移動工学

メッセージ

洗濯物を干す際に、適当に干すのと、水分がまんべんなく空気中に出ていくようにバランスを考えながら干すのとでは、乾燥にかかる時間が大きく変わります。
水やエネルギーの移動といった知識は後付けで学べるものですが、「洗濯物をきちんと干したほうが乾きも早い」と感じ取れるかどうかは、センスです。知識や行動力と同じく、こうしたセンスを磨くことも、大学以降の学びや研究にとても役立つはずです。

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本学は戦後間もない1950年5月22日、沖縄の首里城跡地に開学した国立大学です。建学の精神は「自由と平等・寛容と平和」であり、アメリカ大統領A.リンカーンの理念を反映するとともに、沖縄の歴史と文化に根ざしたものです。
法文学部、観光産業科学部、教育学部、理学部、医学部、工学部、農学部を設置し、また島嶼・海洋環境科学研究、健康長寿科学研究、琉球・沖縄文化研究などの地域特性を生かした研究を推進するとともに、深い学識と豊かな人間性をベースに、地域および国際社会で活躍できる人材を育成しています。