4カ月たっても食べられる刺身? 熟成技術で広がる魚の可能性
熟成で生まれる魚の新たな魅力
魚は新鮮なほどよいというこれまでの常識を覆し、魚をおいしく長持ちさせる「熟成」の研究が行われています。熟成魚は氷温に近い温度で2週間以上寝かせて作るので、魚を有効利用できる期間を延ばすことができます。実際にお寿司屋さんなどでは独自の方法で2カ月以上熟成させているところもあります。長く寝かせることでタンパク質の分解が進み、アミノ酸が増え、ねっとりとした独特の食感が生まれます。
「血抜き」で魚の品質を向上
魚の品質を維持しておいしく熟成させるには、魚の「血抜き」が重要です。魚の血液には、筋肉を柔らかくするタンパク質を分解する酵素や、うまみ成分であるイノシン酸を分解する酵素が含まれているため、魚の品質を下げると考えられています。また血抜きにより血のにおいを抑えることもできます。従来の血抜きの方法では魚の血管を切って血を自然に抜いていたため、生きた魚にしか施すことができませんでした。これに対して死んだ魚にも使えるよう、血管に水や生理食塩水を流して血を押し出す方法が考案されています。
水産資源の有効利用をめざして
熟成魚の実用化には課題もあります。熟成にあまり時間がかかると、食中毒を引き起こす細菌が増える、早く利用したい消費者のニーズに応えられない、という問題が生じてしまいます。また長期間の熟成では冷蔵コストも大きくなります。そのため、細菌など微生物の増加を抑えて安定した利用ができるよう、熟成期間をコントロールする研究も進んでいます。また、魚を熟成させる場所として深海の利用も検討されています。水深4000~6000メートルの深海は水温が1度から2度程度でかつ高圧であるため、熟成の環境として優れており、4カ月以上の熟成も可能です。冷蔵コストもかかりません。熟成の技術が確立されれば、魚に対する新しい価値観が生み出され、鮮度が落ちて廃棄される魚を減らして水産資源の有効利用につながります。また熟成魚は長持ちするため、輸出品としても期待されています。
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東京海洋大学 海洋生命科学部 食品生産科学科 助教 髙橋 希元 先生
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