魚や漁業の未来のために 海の環境と稚魚の生活を探る

魚や漁業の未来のために 海の環境と稚魚の生活を探る

海の環境が変化している

地球温暖化などの環境問題は、海や魚介類にどのような影響を与えているのでしょうか。魚の子どもである稚魚が過ごしている藻場や干潟に注目して、環境や稚魚の暮らしに関する調査が行われています。例えば2020年代の瀬戸内海の藻場を2010年代と比べると、ホンダワラ類と呼ばれる海藻が減りました。ホンダワラ類が生えている藻場は「ガラモ場」といい、メバルの仲間などさまざまな魚の稚魚がエサ場や隠れ場所として利用しています。ガラモ場だった地点で調査が行われた結果、稚魚も減少していることが明らかになりました。海藻という構造物がなくなり稚魚が住めなくなったものと推測されています。

稚魚の現状を知ることが大事

稚魚の減少は、海の中の「食う・食われるの関係」にも影響を与えます。例えば瀬戸内海に住む魚食性の大きな魚たちは、カタクチイワシをエサにして暮らしています。もし将来カタクチイワシが大幅に減ってしまったら、エサ不足で大きな魚が痩せたり生き残れなくなったりして、生態系のバランスが崩れてしまうでしょう。
また、稚魚の調査結果は、漁獲量の変化を予測するうえでも重要です。魚の種類によっては、稚魚の量が多いと漁獲高が上がることがわかっています。稚魚が生き残れる環境があれば、漁業は持続可能性を維持できるのです。

変化が起こる前に調べる

稚魚や海の生態系を守るためには、変化が起きてから調べ始めても遅いのです。「ある魚が減ったことで別の魚も減った」などの影響を証明するためには、減る前の状況を明らかにしておく必要があります。仮にイワシの生息数と、それを食べていたブリやサワラのサイズに関する情報があれば、将来イワシが減ってブリやサワラのサイズが小さくなった場合に、イワシがいなくなったことが原因だと推測できるでしょう。海の現状や魚の生活に関する調査は、未来の状況を正しく評価して、複数の変化を関連付けて原因を突き止めるためにも重要なのです。

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広島大学 生物生産学部 生物生産学科 教授 冨山 毅 先生

広島大学 生物生産学部 生物生産学科 教授 冨山 毅 先生

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水圏生産科学

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メッセージ

あなたが見ている海は、本来の姿ではないかもしれません。すでに変わり果てた後かもしれず、今後さらに変化する可能性もあります。移りゆく自然の中で生きているからこそ、過去と現在、そして将来起こる問題に関心を持ってもらいたいです。問題を解決するためにはメカニズムを調べていくことが必要で、自然に対して関心を持つことが研究の第一歩になるはずです。魚が減った背景には何があるのか、今後何を考えていかなければならないのかなどを、海を見ながら一緒に考えてみませんか。

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広島大学は社会に貢献できる優れた人材を育成し、科学の進歩・発展に貢献しつつ、世界の教育・研究拠点を目指す大学です。緑豊かな252ヘクタールという広大な東広島キャンパスを抱え、また、国際平和文化都市である広島市内等のキャンパスを含め、12学部、4研究科、1研究所、大学病院並びに11もの附属学校園を有しています。 新しい知を創造しつつ、豊かな人間性を培い、絶えざる自己変革に努め、国際平和のために、地域社会、国際社会と連携して、社会に貢献できる人材の育成のために発展を続けます。