講義No.09447 数学

動物の「模様」を、反応拡散方程式で解く!

動物の「模様」を、反応拡散方程式で解く!

「反応」と「拡散」が同時に起こる

ビーカーの中の水に、黒いインクを1滴落とすとします。インクはだんだん水中に広がっていき、最後には全体が薄いグレーの水となります。この時、ビーカーの中では、インクが全体に広がる「拡散」という現象と、各所で水の分子とインクの分子が化学反応を起こす「反応」現象が同時に起こっています。こうした現象を反応拡散系と呼び、その変化は反応拡散方程式で表すことができます。物質がどう動いているのかを数理モデル化し、微分方程式として記述するのです。

ヒョウ柄も反応拡散系!

反応拡散系の現象は一般的に、上記のインクの例のように、時間が経つにつれて均質化、一様化するものであると考えられています。しかし、実はある状況下では、反応拡散系でも一様化が起こらないことがわかっています。
1952年にチューリングという数学者は、ヒョウやシマウマなど、表皮に模様を持つ動物の模様のパターンが、反応拡散方程式で説明できることに気づきました。動物の模様は一様化しない反応拡散系の一例であり、このメカニズムを解析していくことで、生物の形態形成を解明できることになります。

生態学、物理学、社会学にも応用

一様化しない反応拡散系は、表皮の模様以外にもさまざまな分野で見ることができます。物理学における相転移問題がそうです。水はセ氏0度以下で氷になりますが、ちょうど0度の時には氷の箇所と水の箇所がまばらに存在しています。また、発生学では、遺伝的に赤い花と白い花が咲く植物の、赤と白の存在する確率のモデルとなります。これらも、反応拡散方程式で説明できるのです。
このように、一見まったく違う現象に思えるものも、反応拡散系の数学として扱うと、同じもののように見えてきます。つまり、一方の現象について解くことができれば、もう一つの現象を解く鍵になるということです。この考え方は、生態学のような自然現象、渋滞のような社会現象にも応用が可能となるものです。

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先生情報 / 大学情報

東京海洋大学 海洋資源環境学部 海洋環境科学科 教授 中島 主恵 先生

東京海洋大学 海洋資源環境学部 海洋環境科学科 教授 中島 主恵 先生

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解析学、数学

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メッセージ

数学というものは、「自然現象を記述するための言語」です。そして、世界の多くの人が通訳なしで理解することのできる、「世界共通の言語」でもあります。英語が話せなかったとしても、数学を通じて世界の人とコミュニケーションをとることができます。
もしあなたが、数学が苦手でも、得意でも、言語としての数学を自在に扱えるようになれば、もっと世界が広がるはずです。海洋の分野に現れるさまざまな自然現象を、数学という言語を使って一緒に解き明かしていきましょう。

先生への質問

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東京海洋大学は、全国で唯一の海洋にかかわる専門大学です。2大学の統合により新しい学問領域を広げ、海を中心とした最先端の研究を行っています。海洋の活用・保全に係る科学技術の向上に資するため、海洋を巡る理学的・工学的・農学的・社会科学的・人文科学的諸科学を教授するとともに、これらに係わる諸技術の開発に必要な基礎的・応用的教育研究を行うことを理念に掲げています。