養殖業の新時代 ~ゲノム解析で病気に強い魚を作る~
養殖業はこれからの産業
現在、世界中で消費されている動物性タンパク質のうち、およそ3分の1を魚介類が占めています。しかし、FAO(国連食糧農業機関)の試算によると、2030年には、必要とされる魚介類のうち約5000万tが人口増加などによって不足するとされています。つまり、養殖業をより効率化しないと、消費に追いつかないということです。養殖業は今、世界的に注目され、伸びている産業であるとともに、豊かな食生活の実現のために、今後ますます重要になっていく産業でもあります。
ゲノム解析による効率化
農業や畜産の世界では、数千年以上も昔から、家畜化すなわち「育種」が行われてきました。育種とは多数の個体の中から、「成長が早い」「病気に強い(耐病性がある)」など、人間にとって役に立つ性質を持った個体を選抜し、交配することで、より有用な種を育てる作業です。その結果、現代の穀物や家畜は、野生種ではあり得ないほど成長も早く、病気にも強くなっています。
水産業では、人為交配により仔稚魚を作り、育てるのが難しいなどの理由から、なかなか育種が進んできませんでした。しかし現在では、ウナギやマグロのような魚でも完全養殖が可能になり、さらに養殖魚のゲノム解析が進んだため、耐病性形質を左右するゲノム領域を特定し、遺伝マーカーにより耐病性形質の有無を調べて選抜する「マーカー選抜育種法」が可能になってきました。この方法は、効率的に確実に病気に強い品種を作れるだけでなく、耐病性形質のメカニズムの解明にもつながります。
海洋資源を守るために
ゲノム解析による育種はかなり進んでおり、2008年に出荷された養殖ヒラメの約3分の1が「マーカー選抜育種法」で生まれた耐病性ヒラメだというデータもあります。日頃食べているヒラメの多くが、こうして育種された耐病性ヒラメだということです。
FAOは、「天然資源に極力影響を及ぼさないような方法によって食糧をまかなうべき」と提唱しています。ゲノム解析の進歩によって、そんな将来に近づきつつあるのです。
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先生情報 / 大学情報
東京海洋大学 海洋生命科学部 海洋生物資源学科 教授 坂本 崇 先生
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