電気の力で薬をダイレクトに細胞内にデリバリー
薬を目的の場所に効率的に届ける
薬の効き目は個人差や体のコンディションに大きく左右されます。そもそも、有効成分を体内の目的の場所にまで届けること自体が大変難しいのです。薬の成分には体内で分解されてしまうものや、標的以外に効力を発揮して副作用を引き起こすものがあります。そこで、できるだけ効率的に目的の部位へ必要な成分を届けるために開発されたのが「DDS(ドラッグデリバリーシステム)」です。ナノレベルの粒子(ナノ粒子)に薬剤を包んで服用し、体内で輸送制御する方法などが開発されています。
電気刺激で皮膚からの投薬が可能に
そのDDSのひとつで、薬を皮膚から効率的に体内に届ける方法が「イオントフォレシス」です。これは、2つの電極を皮膚に貼り付けて微弱な電流を流すと、イオン性薬物の経皮送達が促進されるというものです。これを利用して糖尿病の薬であるインスリンを封入したナノ粒子を皮膚から体内に入れると、注射よりも血糖値を下げる効果が長時間持続し、患者の負担も減らせます。
画期的なのは、病気に関係する遺伝子を抑制する物質をイオントフォレシスで皮膚から入れると、細胞が変化して物質が細胞中に取り込まれ、標的である遺伝子を抑制できることです。つまり、DNAやRNAを使って病気の元になる悪いタンパク質ができるのを防ぐ核酸医薬を容易に投与できるというわけです。
臓器に直接、薬を届けられる未来へ
なぜ、電流をかけると物質が細胞内に取り込まれて標的の遺伝子に届くのでしょうか。電流により細胞内外のイオンが変化するからだと考えられますが、実はまだ、はっきりとわかっていません。このメカニズムの解明が進めば、皮膚から核酸医薬を体内に入れるだけでなく、腹腔鏡(ふくくうきょう)などを使い、肝臓や膵臓など疾患のある臓器に直接、核酸医薬を届けることも可能になります。狙った標的に高効率で薬を届けることができ、副作用の心配も少ないため、がん治療などに高い効果が期待できます。
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先生情報 / 大学情報
徳島大学 薬学部 教授 小暮 健太朗 先生
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生物物理化学、薬物送達学、衛生薬学先生が目指すSDGs
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