「種の壁」を乗り越えろ! 獣医学でのウイルス研究

「種の壁」を乗り越えろ! 獣医学でのウイルス研究

ネコの肝炎ウイルスの発見

2018年にオーストラリアで発見された「ネコへパドナウイルス」は、ヒトのB型肝炎ウイルスに似ていて、ネコの肝炎を起こすと考えられるウイルスです。日本でも2022年、ネコヘパドナウイルスを持つネコが確認されました。この研究では、ネコヘパドナウイルスが動物の細胞に入る仕組み、そしてヒトのB型肝炎の薬がネコにも効く可能性があることを世界で初めて明らかにしており、その成果が新たな治療法開発に役立つことが期待されています。
このように、動物の感染症の原因となるウイルスを調べて、予防・治療法を開発することは、獣医学研究の主要なテーマの一つです。

普通のマウスははしかにかからない

実験動物モデルを作ることを目的としたウイルス研究も行われています。
新しい薬やワクチンの開発をするときには、必ず細胞を用いた実験や動物実験で効果や安全性を確かめてから、ヒトでの試験(臨床試験)を行います。しかし、ウイルス感染症の実験動物モデルを用意するのは、簡単ではありません。ウイルスは、通常それぞれ宿主にする動物の種類が決まっており、「種の壁」を超えて別の種類の動物に感染することは少ないからです。例えば、はしかにかかるのはヒトなどの霊長類だけです。はしかのウイルスをマウスに感染させるには、マウスやウイルスの遺伝子を改変することが必要なのです。

医学・獣医学の進歩にウイルスを使いこなす

研究者たちはさまざまな工夫により種の壁を乗り越えて、薬やワクチンの開発に挑んでいます。例えば、エイズの原因となる「ヒト免疫不全ウイルス(HIV)」はヒトとチンパンジーにのみ感染します。一方、「サル免疫不全ウイルス(SIV)」はサルに感染します。そこで、HIV感染症の研究のため、HIVとSIVのキメラウイルスを作って、HIV感染症のサルモデルを作る研究も行われています。ウイルスはよく知り、うまく活用すれば、医学・獣医学の進歩に役立てることができます。現在、ウイルスを使ったワクチンやがん治療の研究も進んでいます。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

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先生情報 / 大学情報

宮崎大学 農学部 獣医学科 准教授 齊藤 暁 先生

宮崎大学農学部 獣医学科 准教授齊藤 暁 先生

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獣医微生物学

メッセージ

私はHIVウイルスなどヒトの感染症ウイルスの基礎研究をしています。新たな医療の開発に役立つことが目標で、新型コロナウイルスの変異株の解明に寄与した研究コンソーシアム「G2PーJapan」にも参画しています。
獣医師は動物の命を救う仕事ですが、重大な感染症が起きたときなどには、動物の命を奪うこともあります。社会的に大きな役割を持つ仕事だと知ったうえで、獣医師をめざしていただけるとうれしいです。研究の道に進めば、世界中の動物好きな研究者たちと交流するチャンスもたくさんあります。

先生への質問

  • 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?

宮崎大学に関心を持ったあなたは

宮崎大学は、「世界を視野に、地域から始めよう」のスローガンのもと、人的・知的・物的資源を共有し、機能を相補します。(1) 教養教育の一層の充実と質的向上、(2) 教育・研究基盤の強化、(3) 学際領域の教育・研究の強化と創出、(4) 地域および国際社会への貢献、を具体的な目標として、21世紀を展望しつつ、知の創造の殿堂として、活気に溢れ、魅力に満ちた学風と輝くキャンパスを築きます。また、地域と連携して宮崎の文化と風格を高めることを目指しています。