化学のチカラでペプチドの「そっくりさん」を作る!
体の機能を恒常的に保つペプチド
地球上に生息するすべての生物は膨大な種類のタンパク質を持っています。これらのタンパク質は、たった20種類のアミノ酸がさまざまな順序で結合したものです。生物が摂取したタンパク質は体内でアミノ酸に消化・分解され、栄養になったり、新たなタンパク質の合成素材として使われます。また、タンパク質やペプチド(およそアミノ酸が100個以下から構成される)は体内でホルモンや酵素、抗体、神経伝達物質などの生理活性物質として働き、体の機能を恒常的に保っています。例えば、体内の血糖値の調節に大きく関わるインスリンはペプチドホルモンです。
ペプチド医薬品は「いいとこどり」
このペプチドを薬として活用しようというのが「ペプチド医薬品」です。現在、一般に使用されている薬は大きく「低分子薬」と「抗体医薬」に代表される高分子薬に分かれます。低分子薬は分子量が小さく細胞内の標的が狙えますが、タンパク質同士の結合を阻害することはできません。抗体医薬は分子量が大きいため標的への結合力が強く、タンパク質同士の結合を阻害できますが、化学合成ができず非常に高価です。両者の中間の分子量でそれぞれの利点をあわせ持つのが「中分子薬」で、中でも高い安全性と薬効が期待できるペプチド医薬品が注目されています。
「ペプチドのような」化合物を合成
しかし、天然物由来のペプチドには、薬として細胞に届く前に容易に分解されてしまうという大きな弱点があります。そこで、ペプチドの弱点を克服しつつ、体内ではペプチドのように振る舞う化合物を有機合成する研究が進んでいます。
例えば、モルヒネは植物のケシから得られる天然有機化合物ですが、生体内にあるオピオイド(モルヒネ様)ペプチドと同じ受容体に結合し鎮痛作用を示します。もし、「オピオイドペプチドに似て非なるそっくりさん」を化学合成できれば、モルヒネの副作用を取り除き、さらに経口投与できないという弱点をカバーした、体内での効果が期待できる「ペプチド医薬品」が実現します。
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先生情報 / 大学情報
徳島大学 薬学部 教授 大高 章 先生
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医薬品化学、ケミカルバイオロジー先生が目指すSDGs
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