インスリン注射をなくしたい! 薬の運び屋ぺプチドへの期待
負担が大きいインスリン注射
「インスリン」は、血液中のブドウ糖を細胞に取り込ませるなどの働きがあるホルモンで、これが働かなくなるのが糖尿病です。特に、インスリンが作れなくなる「1型糖尿病」は、毎日、1日数回、自分でインスリンを注射しなければならず、患者の負担が大きい病気です。インスリンを口から飲むことができれば、この負担を大きく減らすことができるのですが、まだインスリンの経口薬はできていません。
薬の運び屋ぺプチドを「緩く」くっつけると
インスリンを経口薬にできない理由は、インスリンは分子量が大きく、胃や小腸内で不安定なペプチドだからです。つまり、消化酵素がインスリンを分解してしまうことや、分子が大きすぎて細胞膜を透過できないことが、経口薬にできない大きなハードルになっています。しかし、このハードルを越える方法が見つかり、経口薬が開発できる可能性が出てきました。そのカギは「細胞膜透過ペプチド」です。ある種のペプチドを「非共有結合」で緩くインスリンにくっつけると、体内の酵素からインスリンが守られることがわかりました。また、それが小腸の細胞膜に到達すると、緩いつながりが切れてインスリンだけが細胞膜を透過し、血管に入ることがわかりました。
薬が届かず治療できなかった病気の克服に貢献
この仕組みを認知症に役立てる研究も進んでいます。インスリンは脳内で、記憶の維持に関与すると考えられていますが、脳には「血液脳関門」というバリアがあるため、脳内にインスリンを届けるのが難しいです。しかし、点鼻薬として細胞膜透過ペプチドをつけたインスリンを鼻に入れると、嗅球という領域から脳に入り込めることがわかりました。マウスを使った実験では、すでに記憶の改善効果があることがわかっています。
現在研究開発中のさまざまな薬物は中~高分子が多いため、インスリンの場合と同様の問題がありました。しかし、それらに細胞膜透過ペプチドを利用することができれば、これまで治療できなかった病気を治すことが期待できます。
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先生情報 / 大学情報
神戸学院大学 薬学部 教授 武田 真莉子 先生
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