医療に役立つRNA研究
薬で治る遺伝子疾患
遺伝子治療という言葉を聞いたことはありますか? 治療用の遺伝子を異常な遺伝子をもつ細胞に導入する治療法です。遺伝子に異常をもつ疾患の治療として誰もがすぐに思い浮かぶ治療法ですが、最近、薬によっても遺伝子疾患を治療できることがわかってきました。
遺伝子の変異の種類にはいくつかあり、中には遺伝子の情報が途中で切れてしまう形式の変異があります。それを「ナンセンス変異」と言います。遺伝子DNAの遺伝情報をもとにRNAが作られ、RNAをもとにタンパク質が作られるので、遺伝子上のナンセンス変異は、そのままRNAにも受け継がれます。しかし、ナンセンス変異を持ったmRNAは分解されてしまい、タンパク質は作られません。異常なmRNAの急速な分解がこの遺伝子疾患の原因ですので、それを抑えることが必要です。
そこでナンセンス変異の認識を甘くする、つまり切れたところを読み飛ばすという薬の開発が今注目を集めています。この薬を投与すると、タンパク質ができるようになるのです。現在臨床試験の段階で、すでに顕著な治療効果を上げています。遺伝子疾患の3分の1には「ナンセンス変異」が関与していますので、成功すれば筋ジストロフィーなど、さまざまな遺伝子疾患の治療に役立ちます。
RNA研究の重要性
2003年のヒトゲノムの完全解読以降、RNAの研究は急速に進展しています。この研究を通して、まだまだわかっていない生命現象の謎を解明することができます。例えば、細胞周期や体内時計の調節、アポトーシス、テロメアの伸長など、さまざまな生命現象にはRNA代謝が重要であることが示されているので、それらの現象の根底にある分子メカニズムを解明することで、遺伝子疾患だけではなく、がん、神経変性疾患などさまざまな疾患について治療の道をさぐることができます。また、最近ではsiRNA、RNAアプタマーなどRNAそのものを薬にする動きもみられます。RNAの研究の大切さ、その成果の活用の可能性はますますクローズアップされてきています。
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先生情報 / 大学情報
名古屋市立大学 薬学部 教授 星野 真一 先生
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