ヒトの病気に対する多様性を、ゲノムから読み解く
病気に対するヒトの多様性
病気になりやすいヒト、薬が効きにくいヒトといった多様性は、どのようなメカニズムで生まれるのでしょうか? 一卵性双生児を除くすべてのヒトは、異なるゲノム情報(体をつくるための設計図)を持っています。ゲノムは4種類の塩基からなるDNAで構成され、ゲノム情報の個人差は塩基配列の違いとして見られます。ゲノム全体では数千万カ所の違いが知られており、その中でどの部分が病気に関わり、どの部分が健康に関わるかの研究が進められています。
ゲノムの違いを探る
世界中に数人しかいないような稀な病気は、1カ所の塩基の違いが発症に関わることが多く、その一方で生活習慣病などの疾患は複数の塩基の違いが関わっています。体中の細胞はすべて同じゲノム情報を持っているので、遺伝による病気や健康の傾向を調べるには、どの細胞からでも分析できます。ただし、がんのように体の一部が病変した場合は、病変した部分だけが正常な部分と異なるゲノムを持つので、患部の細胞を調べる必要があります。
世界規模での共同研究では、数百万人のゲノム情報が同時に分析されることがあります。それぞれの個人差を考慮したうえで、病気に関連した違いを見つけ出すためには、統計学に基づくコンピュータ解析を用います。現在では、生活習慣病の発症リスクをわずかに高めるような塩基の違いがたくさん見つかっています。
発症リスクを抑える
個人がどれくらいの遺伝的なリスクを持っているかは、ゲノム情報を調べればわかるようになりました。今後、ゲノムからの情報に基づいた発見がさらに進めば、効果的な治療法の選択や、積極的な予防法がとれるようになるでしょう。実際に、ある種の心臓血管の病気に対する遺伝的なリスクが高い人は、あらかじめ薬を服用することで発症リスクを軽減できることが分かってきました。ゲノムからのリスク情報と合わせて、後天的リスクとなる環境因子や生活習慣が明らかになれば、複合的な予防によりさらに生涯の発症率を抑えられるものと考えられます。
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金沢大学 医薬保健学域 医薬科学類 教授 田嶋 敦 先生
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