魚の群れはなぜぶつからない?~「非線形」の技術が広げる海洋調査~
条件によって答えが変わる「非線形」
これまでに高校で学んできた数学はほとんどが「線形」です。数式として表しやすい、つまりわかりやすく答えが出るものを「線形」、それに対して条件により答えが変化するものを「非線形」と呼びます。世の中には非線形の事象がたくさんあって、複雑に絡みあって社会やシステムを作り上げています。これまでは非線形を線形に近似して産業や工学に応用してきましたが、現在は非線形の研究が各分野で進んでいます。
魚の群れがぶつからないのはなぜ?
非線形の現象についてわかりやすい例を出しましょう。ひもでつるした板の上に複数のメトロノームを置いて、バラバラのタイミングで動かすとしましょう。最初は個々がバラバラに動いていますが、時間の経過とともにすべてのメトロノームの動きがそろいます。これは、個々のメトロノームの振動が板に伝わって、その板の振動に影響を受けてすべてのメトロノームが同じリズムを刻むようになっていくからです。これを非線形同期と言います。魚や鳥などの群れが互いにぶつかることなく、ひとつの生物のように移動するのも非線形の現象です。
非線形の技術で進む海洋の開発
工業製品は一定の規格があり、その範囲に収まらないものは不良品扱いとなります。そこに非線形制御の技術を使えば、生物のように個々の状態が異なっていても、同じパフォーマンスを発揮できるようになるのです。例えば、深海での通信は強い水圧の影響により、個々の回路に影響が生じて特性が変わってしまうことがあります。非線形制御をすれば、水圧や温度の変化で回路の特性が変わっても、安定して通信ができるようになります。
今進められているのは、サーフボードほどの大きさの船を複数台用いた海洋調査です。非線形制御の応用により、船同士がぶつからず一気に広範囲を調査できます。漁場やダムの湖底など、これまで人手をかけて調査してきたエリアも、効率的に低コストで調べることができるようになるでしょう。
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東京海洋大学 海洋工学部 海洋電子機械工学科 准教授 田原 淳一郎 先生
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