不安を取り除くための行動療法とは?
不安の治療に必要な「慣れ」
心理療法のひとつである行動療法では、不安を抱えている患者さんに対して、基本的には不安の原因に慣れさせるという治療をします。例えば電車に乗ると腹痛になってしまうため、電車で移動できないという症例があります。臨床心理士は患者さんに対し、くり返し電車に乗るという行動療法を行います。しかし途中で電車を降りては効果がありません。患者さんの中に残る一番怖かったときの記憶によって、余計に不安を感じてしまうからです。不安の頂点を乗り越えなければ不安を小さくすることはできないと、行動療法では考えます。
治療には怖くすることも大切?
不安や恐怖の治療では患者さんに怖かったときの状況を思い浮かべてもらい、そこで感じる不安や恐怖をリラクセーションでなだめながら、直面して慣れるようにしていくこともあります。しかし怖かったときの気持ちを再現してもらうのは容易ではないので、恐怖心を呼び起こす方法の研究実験が行われました。
高所恐怖症の人に、まずそれほど高くない台の上につま先だけ出して立ってもらい、目を閉じて少し前かがみの姿勢をとってもらいます。台を降りてから、改めて高いところにいるときのイメージを思い浮かべてもらうと、心拍数の上昇などの、恐怖を感じたときの反応がより高くなることが確認されました。恐怖を感じたときと類似の身体感覚を事前に経験しておくと、恐怖を思い浮かべたときの感覚がより鮮明になるのです。
漠然とした不安は治療が難しい
行動療法では、条件付けで不安や恐怖が生じる反面、不安や恐怖を呼び起こす対象への慣れが生じることで条件付けを解除できると考えます。ですから、電車や高所などはっきりとした対象があるものに対しては比較的対処しやすいのですが、漠然とした不安のケースは治療の難度が上がります。そこでこれまでの行動療法では重視していなかった瞑想などの考え方を取り入れる新しい流れが見られます。実際に瞑想を続けると、ストレスの度合いが低くなった、などの気づきを得る患者さんもいるのです。
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立正大学 心理学部 臨床心理学科 教授 田中 輝美 先生
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