うまく覚える人はうまく忘れる! 嫌な記憶の忘れ方
脳は何もしないことが苦手
人間の脳は、放っておくといろいろなことをしたがる癖があります。例えば、目の前にボタンがあれば押してみたくなるでしょう? 人間は何もしない状態が苦手な生き物なのです。しかし、気の向くままに行動しては統制がとれなくなってしまいます。だから、脳には必要な行動を識別し、不要な行動は抑制できる仕組みが備わっています。記憶もこれと同じで、必要な情報を思い出すために不要な情報を抑え込む仕組みが脳にはあるのです。
不要な情報を訓練で封じ込める
イギリスの心理学者が行った実験を紹介しましょう。被験者は、「学校」と「試験」のように、対になる言葉をいくつか覚えます。そして二組に分かれ、一組には対になる言葉をできるだけ思い浮かべないように我慢してもらいます。一定時間が経過したのち、それぞれに対となる言葉の再現を促すと、思い浮かべないように我慢した組の方が対となる言葉を思い出しにくくなっていました。不要なものはなるべく忘れるように訓練できるのです。この実験では、「学校」「試験」のように被験者にとって中立的な対の言葉を使っていますが、ネガティブなこともあえて意識に上らせないことで記憶の奥底に封じ込めることも不可能ではないでしょう。
心はコントロールできるのか
記憶力には脳の海馬の部分が関わっていますが、記憶の封印状態をうまく維持できるとき、脳の前頭葉の外側の活動が高まり、それにともない海馬の活動が低下することがわかっています。前頭葉の外側の部分は、より良い行動の選択や不要な行動の抑制にも関わっていますから、前頭葉には心をコントロールする機能がつまっていると言えます。
また、うまく覚えられる人はうまく忘れられるという調査結果もあります。忘れ方を鍛える方法が確立されれば、例えば、PTSD(心的外傷後ストレス障がい)や鬱(うつ)病に悩む人たちの治療に生かせるのではないかと期待されています。
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先生情報 / 大学情報
名古屋大学 情報学部 人間・社会情報学科 心理・認知科学系 教授 川口 潤 先生
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