西洋医学を補完する鍼治療の可能性
弱い刺激で不具合を改善
鍼灸(しんきゅう)とは患部やツボ(経穴)に鍼(はり)や灸を用いて、症状の改善や予防をめざす、東洋医学で用いられる治療法です。鍼治療では、通常、髪の毛の直径の倍ほどの太さの金属製の鍼を用います。一般的に使われる注射針よりもかなり細いので、刺しても痛みはほとんど感じません。日本では専用のプラスチックの筒に鍼を入れ、鍼の頭を軽くたたいて皮膚を貫き、筋肉まで到達させることが多くみられます。体に対して弱い刺激を与えることで筋肉の不具合による症状が改善したり、血行が良くなるなどの効果があります。
鍼の刺激は脳にも影響する
さらに、鍼は脳の働きを調整する効果もあります。頭とは離れている手や足のツボに鍼を刺すことによっても、刺激は脳に伝わります。脳を傷つけずに測定できるfMRI(磁気共鳴機能画像)や近赤外分光装置などの機器を使うと、ツボに鍼を刺したときに脳の一部の活動が変化することがわかります。また、百会(ひゃくえ)という頭のツボは精神の不調に効果があるとされてきました。実験で被験者にたくさんの計算をさせ、途中から百会に鍼を刺したところ、計算に関わると考えられる脳のいろいろな部位の活動が抑制されました。さらに研究が進めば、精神的健康を保つための手段のひとつとして応用できる可能性があります。
補完代替医療としての期待
社会の高齢化が進むと、完治が難しい慢性疾患の患者が増えることが予想されます。西洋医学中心の現在の医療体制だけでは、これらの疾患のケアをすべてカバーするのは困難と思われます。薬の投与などの治療と鍼治療を併用することにより、痛みの緩和や、体の動きの改善などを促し、生活の質を高める手助けになると考えられます。近年は諸外国でも鍼灸に関する研究が進み、鍼治療の科学的な根拠も明らかにされつつあります。これからの日本でも、鍼灸治療は、西洋医学を補完代替する可能性がある治療法として、医師と連携しながら実践していく体制づくりが進むことが期待されます。
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先生情報 / 大学情報
帝京平成大学 ヒューマンケア学部 鍼灸学科 教授 玉井 秀明 先生
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