医療を発達させる「磁気浮上技術」
移植手術を待つ間を受け持つ補助人工心臓
死亡の原因になる病気のうち、世界で一番多いのは心臓病です。重い心臓病患者が助かる道は心臓移植しかなく、ドナーによる心臓の提供を待たなければなりません。この移植手術が実施できるまでの期間を受け持つのが補助人工心臓です。例えば心臓病により、自分で送ることができる血液の量が毎分5リットルから3リットルに減ってしまった場合は、残りの2リットル分を補助人工心臓が請け負うのです。補助人工心臓により心臓を休ませている間に機能が回復することもあります。
回転部分を磁力で浮かせる
補助人工心臓が作られた当初は、非常に大きかったため、体内に入れることはおろか、それを体の外につけて動けるようなものではありませんでした。小型化の突破点は、人間の心臓と同じような拍動流から連続流に切り替えたことです。連続流ポンプは拍動流で必要になる人工弁が不要になり、体の中に埋め込めるほど小さいサイズになりました。
しかし体に何年も埋め込むためには耐久性や安全性などが重要です。血液を流す機械の内部で部品がこすれ合うと、赤血球が破損するなどの危険性があります。そこで、どこにも触れ合わないようにするために、磁気で回転部分を浮上させる磁気浮上技術により、きれいな血液を流せるようになりました。
全人工心臓をめざして
しかし、補助人工心臓をつけた後に、約40%の患者はもう一方の心室にも不具合が出てしまうことがわかってきました。とはいえ両方の心室に1つずつ補助人工心臓をつけると、血の巡りのバランスが崩れてしまいます。1つの補助人工心臓だけでバランスよく両方の心室に血を送り込む必要がありました。ここにも磁気浮上技術が取り入れられ、磁力で浮かせた回転部分を上下させることで、流量の調整を自動でできるシステムが開発されたのです。これにより両心室を補助する人工心臓のみならず、心臓の代わりになる全人工心臓の完成も見えてきています。
参考資料
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先生情報 / 大学情報
群馬大学 理工学部 電子・機械類(知能制御プログラム) 准教授 栗田 伸幸 先生
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