より速く走るための姿勢を「地面反力」から明らかにする
「速さ」と「地面反力」
私たちは歩いたり、走ったりするときは地面を蹴ります。このとき、地面から受ける反発力のことを「地面反力」と呼びます。人が速く走るためには、地面を踏みしめたときに発生する地面反力を、進行方向側に向けることが有効であることが先行研究によりわかっていました。そこで、どうすればこの地面反力を進行方向に向けることができるのかについて、詳しい調査が行われました。
地面反力の方向は姿勢で変化する
実験では、まず地面反力を測定する「地面反力計」を埋め込んだ床の上で、被験者にクラウチングスタートを行ってもらいました。スタートの際の地面反力の測定と、スタート時の動作をモーションキャプチャで測定し、これらのデータを基にシミュレーションモデルを作成します。このモデルから、どのような姿勢を取れば地面反力をより効果的に進行方向に向けられるのか、検証が行われました。その結果、走るときに脛(すね)を前に倒すことで、地面反力が進行方向に向きやすいことが明らかになりました。この姿勢は陸上競技の選手やコーチの間では経験的に認識されていましたが、その理由を具体的に調査した例はありませんでした。この検証で、脛を倒すことで地面反力が進行方向に向くメカニズムが実証されたのです。
知見を生かした測定機器の開発
「スポーツバイオメカニクス」は、このような経験的な知識に対して科学的で明確な答えを提供できます。しかし、多数のカメラや選手への測定用マーカーの装着が必要となり、競技中の測定に用いることはできません。マーカーレスのモーションキャプチャも開発されていますが、導入コストが大きいという課題があります。そこで、このような事例研究を通じて、競技者と研究者の両方の視点から、より手軽で低コストな測定機器の開発も進められています。簡単に動きを測定できるようになれば、走ることだけでなくさまざまな運動競技の発展にも寄与するでしょう。
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