集中治療室で起こりがちな記憶のゆがみを予防するには
短いけれど重要な時間
集中治療室(ICU)では、患者の命を救おうと短期間でさまざまな治療を施しています。患者の人生にとっては、一瞬のような出来事かもしれません。しかしその短い時間にICUで受けた治療や看護が、患者のその後の人生を左右する場合があります。集中治療室で働く看護師は、患者の人生全体を見据えて、心身共に健やかな人生を歩んでもらうためによりよい支援をめざしています。
患者に起こる記憶のゆがみ
例えばICUという非日常の環境に置かれることで、患者の記憶にゆがみが生じる場合があります。幻覚が見えたり、何が現実かわからなくなってしまったりといった症状が、ICUを出た後も続いてしまうのです。現実と幻覚とを判別できないままだと、家族と話も合いづらくなります。家族が「ICUでこんなことがあったよね」と話しかけても患者自身は覚えていなかったり、患者が幻覚を現実だと思い込んでおり周囲と認識が食い違ったりといった事例が見られます。その結果、ささいなことからケンカになるなど、家族との関係性が悪化してしまう場合もあります。
鎮静薬を使わない治療
ICUでは患者の苦痛を緩和するために、鎮静薬で眠ってから治療を行うことが主流でした。しかし研究によって、患者の意識を保ったまま治療を行うほうが記憶のゆがみを予防できそうだとわかってきました。長時間意識のない状態が続くと、知らないことが増え、現状認識が追いつかなくなったり、現実と幻覚の区別が付きにくくなります。そこで鎮静薬をなるべく使わず、鎮痛薬で過剰な痛みだけを取り除いて行う治療が始まりました。
意識を保ったまま治療を進めることは、記憶のゆがみを予防する以外にも効果があると考えられます。起きている間に可能な範囲で身体を動かすと、「自分にもできることがある」と患者が感じやすくなるのです。気持ちが前向きになれば、心身共に回復が早まるかもしれず、ICUでの実践も交えながら、効果の検証が行われています。
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武蔵野大学 看護学部 看護学科 准教授 福田 友秀 先生
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