自然界の砂の動きの解明が、日本の海岸を救う
「海岸侵食」の生活への影響
土木工学には幅広い分野がありますが、海岸工学も重要な分野のひとつです。実は日本の海岸線では、古くから砂浜が減って国土が狭くなり、私たちの安全な生活を脅かす「海岸侵食」という問題があります。
砂浜は、山の土砂が川を通って海へたどり着くことでつくられています。しかし、ダムの建設による土砂の流れのせき止めや、コンクリートをつくるための土砂採取などによって、海にたどり着く土砂が減っています。土砂の流れの一番下流である海にその影響が集中し、その結果、海岸侵食が起こっているのです。
絶妙な自然界のバランスを解明する研究
海岸侵食の対策として、消波ブロックの設置や、砂浜に土砂を入れる「養浜」、といったことが行われています。しかし、海岸は波や風などの影響を受けて毎日変化していますし、海底や砂浜の土砂の動きは地形や風、波の状態、砂粒の大きさや形状といったさまざまな影響を受けながら絶妙なバランスを保っているものです。良かれと思って設置した人工物によってバランスが崩れることもあるのです。
そうした自然界のバランスを探るため、あらゆる情報を集めて解析する研究が行われています。台風も海岸に大きな変化をもたらしますが、そこからどのように回復するかということの解明も、私たちが適切に海岸を管理していくために必要です。
日本の国土を自然に近い形で守る
地形や川の流れ、建造物といった情報を現地で収集し、シミュレーションや実験により砂の動きを検証します。観測したデータは日本の未来のための大切な財産になります。
砂の動きや自然界のバランスを解明すれば、自然に近い形での砂浜や干潟の管理・回復が可能になります。例えば、ダムに蓄積した砂を、私たちの手で海岸近くまで運ぶことで、海岸にたどり着く砂の流れを手助けする、といった方法や、砂が動いてしまうことを見越して、砂の循環を手助けする、といった方法も考えられます。未知数な部分が多い自然界の現象を解き明かすことで、地球にも人にも優しい海岸の保全につながるのです。
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豊橋技術科学大学 工学部 建築・都市システム学系 教授 加藤 茂 先生
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