遺伝子操作で塩害から農作物を守る

遺伝子操作で塩害から農作物を守る

地中のナトリウムで作物が枯れる塩害

世界の中で乾燥地帯を中心に塩害に苦しむ農家は少なくありません。発展途上国では特に深刻な問題です。塩害の被害を受け収量が減ってしまうと、その塩害土壌の回復が困難なために農地を放棄してしまう場合もあります。乾燥地帯における塩害は雨が降らないために地中の水分が蒸発して塩分が残り、それを農作物が吸収するために起こります。塩分の中でもナトリウムは植物にとってあまり必要ないというだけでなく、枯れる要因にもなります。そこで、塩分に強い作物を遺伝子操作によって作ることで、塩害の被害を防ごうという研究が行われています。

ナトリウム吸収に関係する遺伝子の働きを無効に

この遺伝子操作は、塩分に強い作物を作るというよりは、ナトリウムを取り込む遺伝子の働きを無効にすることで、ナトリウムの吸収を抑えるという手法です。ナトリウムの吸収に関わる遺伝子配列を逆向きに組み込むと、その遺伝子の機能を無効にすることができます。このような方法を「遺伝子ノックダウン」と言います。これに対して、植物にはいったん吸収したナトリウムを外に排出する機能もありますが、それを強める遺伝子操作もあります。これまでの塩害研究では、この方法のほうが盛んに研究されてきました。もちろん、最初からナトリウムを吸収しないほうがより効果的ですが、実際にはこの2つの方法を組み合わせて、効果を最大限にすることを考える必要があります。

カリウムは吸収させ、ナトリウムの吸収を抑える

ただし、ナトリウムの吸収機能を抑える方法には問題点があります。植物の生育にとってカリウムは大量に必要ですが、カリウムとナトリウムは元素的に似ているため、この2つが同じ遺伝子の作用によって吸収されているのです。つまり、ナトリウムの吸収を抑えようとすると、植物に必要なカリウムまで抑えられてしまうのです。そこで、さらに遺伝子操作を改善することで、必要なカリウムは吸収し不要なナトリウムは取り込まないような遺伝子組換えを行う研究が進められています。

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広島大学 生物生産学部 生物生産学科 教授 上田 晃弘 先生

広島大学 生物生産学部 生物生産学科 教授 上田 晃弘 先生

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植物栄養生理学

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メッセージ

近年、地球人口が増加する一方で、環境条件の悪化により利用できる農耕地面積が減少しつつあります。そこで私の研究室では、塩害などの環境ストレスから農作物をいかに守るかを考えています。ユニークな仕事を行うためには、人のまねをするのではいけません。もし、人と違った考え方があなたの中にあるのならば、それはしめたものです。それを大事に育てながら、自分のやりたいことに反映させていくことが重要です。新しいことにトライしたい、そしてユニークなアイデアを試したいあなた、ぜひ私と一緒に楽しく研究しましょう。

先生への質問

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