講義No.09826 観光学

経済効果だけじゃない? ~観光業の意外な役割~

経済効果だけじゃない? ~観光業の意外な役割~

なぜインバウンドはこれほど増えたのか?

2018年、インバウンド(訪日外国人旅行者)が年間3千万人を突破しました。2012年に初めて1千万人を超えてから6年で3倍に急増しました。少子高齢化にともなう人口減少で国内の市場が低迷する中、ほかの産業では例を見ないほど規模の拡大が続いているのは、インバウンド観光市場です。
日本の自然文化、食事などの観光資源が評価されていることはさることながら、国内の事情だけではこんなに短期間で急増しません。何が一番変わったかと言えば、近隣のアジア諸国が経済発展して国民所得が向上し、訪日旅行需要が拡大したことです。もちろん、これに合わせて政府もビザ免除、免税措置、LCCの拡充といった規制緩和策などで対応しています。ほかにも円安や日中関係の改善など、さまざまな要因があります。

インバウンド観光の意義、効果

国内日本人観光は、内需の移動ですが、外需を獲得するインバウンド観光は「見えざる輸出」と呼ばれ、国の経済成長に寄与します。2018年のインバウンド消費は、4兆5千億円に達し、自動車部品、電子部品の輸出を上回ります。
また製造業と違って旅行消費は、買い物、宿泊、飲食、交通、娯楽など幅広い分野に波及します。さらに訪日旅行をきっかけに、その後も日本製品を越境ECで購入し、化粧品や食品などの輸出が伸びるなど、インバウンドの経済効果は大きいです。また、訪日旅行の前後で、対日世論が厳しいとされる中国人、韓国人旅行者の日本に対する印象が、悪いから良いに大幅に変わるなど、社会的な意義や効果も大きいです。

光があれば影もある

しかしインバウンドの増加は、同時に課題も生み出しています。インバウンドの消費額は、東京、大阪、北海道、京都などの大都市や特定地域に集中し、多くの地方がその恩恵を受けていません。逆に京都では外国人観光客が増えすぎて生活環境が悪化するなど「観光公害」の問題が発生しています。このように、観光学とはさまざまな因果関係から現象や問題を解明する、学際的な研究なのです。

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先生情報 / 大学情報

奈良県立大学 地域創造学部 地域創造学科 教授 新井 直樹 先生

奈良県立大学 地域創造学部 地域創造学科 教授 新井 直樹 先生

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観光学、地域政策学

メッセージ

自分の人生を振り返っても、大学時代は自分の基礎を形作る重要な時期だと思います。
今はまだ、明確な進路や目標が決まっていなくても、大学時代の学び、読書、経験や、人との出会いを通じて、自分が形作られ、自分がやりたいと思えるようなことが、見出されるのではないかと思います。大まかでも、こういう分野のことを、この大学で学びたいとか、この大学の学風やキャンパスライフは魅力に感じるということが決まったら、妥協せずに、目標に向かってしっかり頑張ってほしいと思います。

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わが国が21世紀において、さらなる発展を遂げるためには「地域」に視点を置いた教育研究が必要です。地域経済や観光に関する教育研究により、地域づくりに貢献できる優れた人材を養成するとともに、研究活動の成果を地域に還元し、さらに地域に開かれた大学として生涯学習の場を提供することによって、社会・文化の発展に寄与すること。
■「地域創造」とは
経済、文化、歴史、社会等に関して一つのまとまりとしての意味を持った地域を活性化し、人々が豊かな生活を享受できる地域社会を築くことです。