なぜドミニカ共和国から多くのメジャーリーガーが誕生するのか?
ドミニカ共和国の野球
日本の優勝で幕を閉じた2023年のWBC(ワールドベースボールクラシック)には、ラテンアメリカ、カリブ海地域の国も多数出場していました。なかでもドミニカ共和国は、アメリカのメジャーリーグで活躍する選手を最も多く輩出する野球大国です。同国は経済や政治の面でアメリカに依存しており、また貧困家庭も少なくありません。そのため優れた野球選手を数多く輩出するのは「貧困から抜け出し、アメリカに渡って野球で稼ぐために努力する選手が多いからだ」といった、スポーツのわかりやすい物語として語られることがよくあります。
移民という視点
しかし、それは一面的な理解にすぎません。そこに「移民」という視点を加えてみることで、違った姿が見えてきます。ドミニカではグローバル化が進展した1980年代以降、働き盛りの男性の多くが仕事を求めてアメリカに渡るようになります。ドミニカの家庭は母親が子育てや家事を担い、男性は家庭に対して責任をもたないと語られることもありますが、実は男性たちがアメリカで稼ぎ、送ったお金が、子どもの養育や老後の親を支えているのです。ドミニカにはこうした「移民を送り出す」「移民が社会を支える」という社会構造があり、野球選手だけがアメリカに渡っているわけではありません。
複雑に絡み合う要素
また、メジャーリーグの全球団がドミニカに育成の拠点を構え、ドミニカ政府が税金の面でこれを優遇している点もドミニカ野球の特徴です。
文化人類学という学問ではこのテーマについて、対象となる地域に赴き、そこに暮らす人々と生活をともにし、現地で起こるさまざまな事象を体験しながら考える「フィールドワーク」という手法を用いながら考えます。そして、経済格差や貧困という要素だけでなく、「移民」「送金行為」「グローバル化」「スポーツの産業化」といった社会・文化的な背景のなかにその要因を見いだし、それらが互いにどう関わりあっているのかを考えながら、ドミニカの人々と野球との本当の関わり方について迫っていくのです。
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先生情報 / 大学情報
奈良県立大学 地域創造学部 地域創造学科 准教授 窪田 暁 先生
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