競技者の「センス」とは? アスリート育成の観点から考える

状況判断の力
ラグビーやサッカーをはじめ、多くのスポーツでは選手の状況判断や予測が重要であると考えられています。選手は競技の間、「認知・知覚」「判断」「行動」を繰り返していますが、状況判断や予測に深く関わっていると考えられるのは「認知・知覚」のプロセスです。例えば状況判断や予測に優れた選手は「センスが良い」「勘が働く」と評され、そうした力は先天的に授かったものであると考えられてきました。
アスリートを育成するコーチング学の領域では、スポーツ心理学の知見を用いながらこれらの仕組みを明らかにし、さらに後天的に伸ばすトレーニングにつなげる研究を行っています。
判断と結果
選手の状況判断能力は、従来では「あのパスが良かった」「あのポジションは良くなかった」と、プレーの結果をもとに評価されてきました。しかし近年では「結果」と「判断」を切り離して、結果が失敗でもその前の判断が必ずしも悪いとは考えないようになってきています。例えば動画を見ながら失敗したプレーを振り返り、コーチが「このときなぜ真横にパスをしたのか」「その前はどこを見ていたのか」といった質問を選手に投げかけて、選手はその判断について話します。判断と結果のプロセスをコーチと選手がともに考える「双方向型」の指導によって、選手が自らの判断を振り返る力は着実に伸びていきます。
未知の領域
動画撮影・編集の技術が発展した現在、競技からは数多くのデータが取得されるようになりました。こうしたデータをうまく活用すれば、選手の状況判断の力を一層高められるでしょう。一方で、プレーにはスキルや身体能力など多くの要素が絡んでおり、「選手の判断」と「実際に行われたプレー」の間には、明らかになっていないことが残されています。ほかにも身体能力や道具など、スポーツの世界には科学的に証明されていないことが数多くあります。心理学や情報処理を含む幅広い学問の力を用いながら、こうした謎を解明することも、スポーツ研究の大切な役割なのです。
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福岡大学スポーツ科学部 教授下園 博信 先生
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