どんな魚にもワクチンを! 魚類独自の免疫システムの応用
「浸す」ワクチン
養殖魚にもワクチンを打つことを知っていますか?ヒトと同じで、魚も病気をワクチンで予防することができます。しかし、通常は注射により1尾ずつワクチンを投与するため、手間やコストがかかります。日本で養殖している高級魚であれば、それでも儲けが出ますが、東南アジアで養殖している安い魚では、ワクチンを打つだけで赤字ということもあり得ます。この問題を解決できるのが、不活性化した病原体が入ったワクチン液に魚を浸す「浸漬(しんし)法」です。
ワクチンを取り込むGAS細胞
浸漬ワクチンは一度に大量の魚に投与でき、手間やコストを抑えられます。しかし、浸漬ワクチンで予防できる病気は世界中で3種類しかありません。それ以外の病原体ではなぜか効果を得ることができず、その理由は長い間謎のままでした。最近、その答えは浸漬ワクチンを取り込むエラの細胞(GAS細胞)にあることがわかりました。GAS細胞は浸漬ワクチンが有効とされる病原体は取り込むものの、それ以外の病原体は取り込みません。浸漬ワクチンが効くかどうかは、GAS細胞がその病原体を取り込めるかどうかによるのです。つまりGAS細胞が取り込む時に決め手となる病原体のパーツを、取り込まれにくい病原体の表面に付けてやれば、理論上どんな病原体でも浸漬ワクチンとして使用できます。この方法が成功すれば、浸漬ワクチンの種類が一気に増え、どんな魚にもワクチンが投与できるようになります。
魚類独自のエラの免疫システム
魚類の免疫系は、進化学的に「下等な」免疫機構とされています。これは、哺乳類に比べ、魚類の免疫システムがより単純であることによります。しかし、魚類は陸上よりも圧倒的に微生物の多い水中に生息しています。スプーン一杯の海水には実に1億個もの微生物が入っているのです。このような微生物だらけの水中で、果たして「下等な」免疫機構で生き抜くことができるのでしょうか。GAS細胞は、魚類が微生物だらけの環境で生き抜くための、独自な免疫的戦略を担う細胞だと考えています。
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東京海洋大学 海洋生命科学部 海洋生物資源学科 准教授 加藤 豪司 先生
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