川の水から見えてくる森林の健康状態

全国の森林を市民が調査
かけがえのない森林を守り次の世代へ伝えていくには、森林が現在どのような状況であるのかをまずよく知らなければなりません。広範囲にわたる森林の状態を把握するには、河川の水質分析が有効で、その流域全体の様子を知ることができます。そこで、500人以上の一般市民が参加して、全国1400カ所を超える地点の川の水の収集・調査が行われました。
窒素から見る森林の状態
調査で主に着目されたのは、植物の生育に欠かせない窒素です。大気中の窒素酸化物(NOx)は大気汚染物質として知られていますが、適量であれば森林の栄養として利用されます。窒素酸化物は雨とともに森林に降り、土壌中で無機態窒素(硝酸態窒素やアンモニア態窒素)に変化して植物や微生物に利用されたあと、硝酸態窒素が土壌からしみ出して川に流れ込みます。この硝酸態窒素の濃度を調べれば、森林での窒素の量の過不足がわかります。
調査から、森林の窒素量は積雪にも影響されることがわかりました。雪と一緒に降った窒素は雪中にとどまり、春の雪解けとともに一気に流出するため生態系に取り込まれないのです。しかし今後、地球温暖化が進めば雪が雨に変わり、過剰となった窒素酸化物が土壌を酸性にして森林に悪影響を及ぼす可能性があります。そのため積雪の多い福井県では、より詳しい河川水質の調査が進められています。
間伐材で森林の土壌を改善
森林環境を改善する取り組みも行われています。林業は森林の保全に大きな役割を果たしていますが、全国的に経営が厳しい状況です。そこで、林業振興に向けて間伐材に注目し、その新しい用途として木炭が検討されています。木炭は無数の小さな穴がある「多孔質」構造をしているため、森林の土壌に混ぜ込むことで水分を適度に保つ働きをします。また木炭はアルカリ性なので、窒素酸化物の雨で酸性になった土壌の中和も期待できます。森林環境改善と林業活性化のどちらにも役立つものであり、実現に向けて、土壌改良に効果的な木炭の量などについて実験が進められています。
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