経済理論のつながりを知る
言葉にできないけれど知っている
私たちは、自転車でカーブにさしかかると絶妙な角度でハンドルを切ります。人によっては体重を少し内側に移動させるなど、それぞれにバランスを取る方法を無意識のうちに理解しています。このように、言葉では説明できないけれども理解している知識を、20世紀の経済学者マイケル・ポランニーは「暗黙知」と呼びました。もともと物理化学者だったポランニーは、科学者が新たな発見をする際にも暗黙知からひらめきが生まれることが多いと考えました。
自由主義者マイケル・ポランニー
マイケル・ポランニーは、第一次大戦前のハンガリーで生まれました。ドイツで物理化学の研究に携わっていましたが、第二次世界大戦が勃発すると、ユダヤ人のポランニーはナチスの迫害から逃れるためにロンドンに移り、社会科学者に転向しました。この頃にソ連共産党の指導者ニコライ・ブハーリンと会談し、「科学は国家に計画されるべき」というブハーリンの意見に疑問を抱いて、「学問や研究は国家の統制ではなく自由に任せるべきだ」と主張しました。これが、その後の「暗黙知」の研究につながっています。
経済学史の大切さ
ポランニーなどの経済学者が唱えた理論や思想の発展過程を研究する学問が「経済学史」です。経済学史は、ばらばらに見える経済理論のつながりを明らかにしてくれます。例えばポランニーの「暗黙知」は、アダムスミスが主張した分業や市場の「見えざる手」の概念とも通じています。スミスは個々の行動が全体の調和を生むと述べました。ポランニーも個々の科学者の暗黙知が科学の進歩に貢献すると考えました。さらに、ケインズが提唱した政府の積極的な介入と調整の必要性は、スミスとは異なる視点ですが、複雑な経済や社会システムにおける知識の重要性を強調する点では関連性があります。
経済学史を学ぶことは、過去の理論や思想の発展を理解して、現代の経済問題に対する洞察を深めてくれます。
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先生情報 / 大学情報
福井県立大学 経済学部 経済学科 准教授 今池 康人 先生
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経済学史、経済思想史、社会思想史先生が目指すSDGs
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