世界の食糧危機を救った“日本発”の背の低い小麦
食糧危機は21世紀の重要問題
今の日本で暮らしていると、食糧危機という言葉は遠い世界の出来事のように感じます。しかし、地球上の人口は今現在も増え続け、国連の推計によると、2050年には90億人を超えるとされています。人間は何かを食べなくては生きていけませんから、食糧も人口増加にともなって増やさなくてはなりません。そのため、農作物の収穫量を上げようとする研究が昔から行われてきました。
逆転の発想で危機を乗り越えた「緑の革命」
そのなかでも、最も有名な農業技術での革命的な出来事は、ノーベル平和賞にも称えられる1960年代に起こった「緑の革命」と呼ばれるものです。
人類が主食として食べている稲や麦、トウモロコシなどイネ科作物は、すべて穂の上に種(食べる部分)がつきます。収穫量を上げるために大きく育てようという努力は昔から行われていましたが、あまり大きく育ちすぎると、強い風で倒れてしまいます。倒れて地面に着いてしまうと、もう食べ物にはなりません。つまり、背丈を大きくするという方法には限界があるのです。そこで、全く反対の「背を低くする」という発想が持ち込まれました。より高くしようと育てていたものの中には、どうしても背が高くならないものがありました。その個体に肥料を与えると、背は高くならず、横に広がって成長しました。背が低く収穫量も高い小麦ができたのです。
「変わり者遺伝子」を見つけて利用
実は、その背の低い遺伝子は日本で発見されました。この種と技術は戦後アメリカに導入され、1960年代にアメリカ中に普及し、その結果、アメリカの小麦の収穫量を2~3倍に増やし、メキシコでは6倍にもなりました。高く育てることが当然だった時代には、背の低い小麦は、言わば変わり者です。しかし、その遺伝子を発見したことで、世界の小麦の収穫量が飛躍的に増え、多くの人々を飢餓から救いました。植物にはこのように、人間にとって有効に利用できる遺伝子があるのです。これからもさまざまな遺伝資源を発見していく作業が続くでしょう。
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