講義No.10007 外国文学

ロシア文学の作品に秘められた近代化や社会主義への批評

ロシア文学の作品に秘められた近代化や社会主義への批評

ロシア文学の作家はオピニオンリーダーだった

ドストエフスキーの『罪と罰』やトルストイの『戦争と平和』など、ロシアの文学作品には恋愛や歴史、ミステリーなどさまざまな要素がミックスされています。政府による検閲があり、直接的に主義主張を書くと出版できない可能性があったため、政治的な思想などを登場人物の人生観や恋愛観、世相への批評などに織り交ぜて小説を書いたのです。作家はオピニオンリーダーの役割を果たしていたと言えます。実際、晩年のドストエフスキーは評論活動に傾倒し、トルストイは宗教や道徳を論じる思想家に近い立ち位置となりました。

近代化への憧れと疑問

近代化への道をたどる中、日本の作家や政治家が欧米に渡ったのと同じように、19世紀のロシアの作家も西欧諸国を訪れていました。中でも自由な空気に満ちたパリは彼らにとって憧れの街でしたが、当時のフランスはまだギロチンによる公開処刑が行われるなど、近代化への疑問も抱かせることになりました。またこれも日本人と通じる点ですが、共同体や組織を重んじるロシア人にとって、近代化による個人主義化への抵抗感もあったようです。

スターリンを怒らせた男

20世紀に入りロシア革命が起こると、文学を政治的にコントロールしようという政府の動きがより強まりました。その締め付けに順応できない作家も多く、『土台穴』で知られるプラトーノフもその一人です。もともとロシア語は語順が比較的自由な言語ではあるのですが、彼の文章は破格で、グロテスクさと叙情性をあわせ持つ不思議な文体です。そのため意図が伝わらないこともあり、彼の著作を読んだスターリンが激怒したという逸話もあります。
その後、体制が変わるにつれ規制も緩くなり、プラトーノフも再評価されることになりました。無事に日の目を見られたのは、家族が作品を守ってきたからです。こうしたことはロシアでは珍しくなく、絵画や建築など、社会主義下だからこそ生まれた文化が後世に残ることになったのです。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。

先生情報 / 大学情報

埼玉大学 教養学部 教養学科 教授 野中 進 先生

埼玉大学 教養学部 教養学科 教授 野中 進 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

ロシア文学

メッセージ

大学での授業選択は自由度が高く、学生は自分が学びたい授業を選ぶことができます。専門外の授業を受けることもできますから、その際には一コマぐらいは文学を選んでください。今まで教科書で触れてきた作品とは違う魅力を感じ、社会に出た後の人生を豊かにしてくれるでしょう。
ロシア文学で挙げればツルゲーネフの『はつ恋』は読みやすく、淡い恋愛感情や父親との関係など、共感できる点も多いでしょう。ドストエフスキーやトルストイの文章にはある種の「毒」があり、思想性の高い小説が好きな人にはぜひお勧めします。

埼玉大学に関心を持ったあなたは

埼玉大学は、総合大学として有為な人材を育成する、首都圏大学として社会とリンクし還元する、世界に開かれた大学として国際交流を推進する、の3つが特色です。TOEIC600点を目標に画期的な英語教育を実施しています。学生諸君が、高度な専門知識に加えて幅広い教養と国際感覚を持ち、社会に貢献することができる市民・職業人に成長できるよう、教育上のさまざまな工夫を施しています。