ロシア文学の作品に秘められた近代化や社会主義への批評
ロシア文学の作家はオピニオンリーダーだった
ドストエフスキーの『罪と罰』やトルストイの『戦争と平和』など、ロシアの文学作品には恋愛や歴史、ミステリーなどさまざまな要素がミックスされています。政府による検閲があり、直接的に主義主張を書くと出版できない可能性があったため、政治的な思想などを登場人物の人生観や恋愛観、世相への批評などに織り交ぜて小説を書いたのです。作家はオピニオンリーダーの役割を果たしていたと言えます。実際、晩年のドストエフスキーは評論活動に傾倒し、トルストイは宗教や道徳を論じる思想家に近い立ち位置となりました。
近代化への憧れと疑問
近代化への道をたどる中、日本の作家や政治家が欧米に渡ったのと同じように、19世紀のロシアの作家も西欧諸国を訪れていました。中でも自由な空気に満ちたパリは彼らにとって憧れの街でしたが、当時のフランスはまだギロチンによる公開処刑が行われるなど、近代化への疑問も抱かせることになりました。またこれも日本人と通じる点ですが、共同体や組織を重んじるロシア人にとって、近代化による個人主義化への抵抗感もあったようです。
スターリンを怒らせた男
20世紀に入りロシア革命が起こると、文学を政治的にコントロールしようという政府の動きがより強まりました。その締め付けに順応できない作家も多く、『土台穴』で知られるプラトーノフもその一人です。もともとロシア語は語順が比較的自由な言語ではあるのですが、彼の文章は破格で、グロテスクさと叙情性をあわせ持つ不思議な文体です。そのため意図が伝わらないこともあり、彼の著作を読んだスターリンが激怒したという逸話もあります。
その後、体制が変わるにつれ規制も緩くなり、プラトーノフも再評価されることになりました。無事に日の目を見られたのは、家族が作品を守ってきたからです。こうしたことはロシアでは珍しくなく、絵画や建築など、社会主義下だからこそ生まれた文化が後世に残ることになったのです。
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