教育現場を変えるのは、その外側の「合意」
身近な合意形成と結果を考察してみよう
異なる意見を持った人たちの「合意」が形成される過程や、その結果と課題は、社会のさまざまな場で共有される価値があります。例えば、家庭で夕食のメニューを相談したとします。和食が良い、中華が食べたい、といった子どもたちの要望を満たすために、なんでもあるファミリーレストランへ行くことにしました。調理の手間は省けましたが、費用は家で作るより高くつき、保護者は栄養面での偏りも少し心配な結果になりました。全員が納得のいく合意形成は難しいことがわかります。
教育改革も政治の役割
合意の最たるものは、国家レベルの政策立案です。「政治は合意の科学」と言われます。そして教育と政治は、政策によって深く結びついています。教育改革をするなら、立場の違う関係者達が、どこかで折りあいをつけて合意しなければなりません。さらに、教育の質を良くしたいという思いは共通でも、そこには必ず「教育の外側」にある社会構造が反映されます。教育現場を改善していくには、制度そのものの見直しが必要です。
戦後40年での教育政策の見直し
その例として、1984年の「臨時教育審議会(臨教審)」を取りあげてみます。第二次大戦後、福祉国家体制づくりが進み、40年を経て教育政策の見直しが行われました。これは「鉄の三角形」と言われた、戦後の教育行政をつくってきた官僚組織・政治組織・利害集団の癒着への抗議が背景にあります。当時の首相、中曽根康弘は「戦後教育の総決算」と宣言しましたが、本音は自民党内の文教族との攻防でした。後の政権で教育の自由化や民営化が進められる転換点となった臨教審でしたが、当時は総理大臣の権力基盤が強くなく、多くのアイデアが実現には至りませんでした。結果として大学入試制度が変わり、教員の初任者研修が始まっています。
パフォーマンスと政治的な合意は違って当然ですが、政策立案への実際の経緯は、非公開資料や、立場による主張の違いを研究することで明らかになるのです。
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埼玉大学 教育学部 教育学講座 准教授 長嶺 宏作 先生
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