手紙から読み解くフランスの「光と闇」
どんな文学作品にも劣らないほど胸を打つ母の手紙
1943年、フランスで書かれた1通の手紙があります。そこにはたどたどしい文字で、「こんなに幼いお前たちを見捨てて行かなくてはいけなくなって、私たちの胸は張り裂けそうです」という内容が書かれています。ユダヤ人の大量虐殺が行われているアウシュヴィッツ強制収容所へと家畜運搬用貨車で送られる直前に、ユダヤ人女性が自分の子どもたちに宛て書いたものです。書かれた状況や歴史的背景を考慮すると、どんな著名な文学作品にも劣らないほど痛烈に胸に迫ってきます。
あこがれの国の光と闇
フランスは、18世紀以降「自由・平等・博愛」の理念を掲げ人権国家として世界中に文明の光を放ってきました。明治時代の日本にとっても、フランスは学ぶべき高い文明でした。しかし、ほかのヨーロッパ諸国と同様、フランス国内ではユダヤ人への差別や迫害が続きましたし、国外ではアジアやアフリカの国々を植民地化してしまいました。これは、「自分たちは素晴らしい人間観念や文明を持っているのだから、それを世界に広め、共有したい」という高い使命感を抱くフランスのいわば負の側面です。フランスは今でも多くの日本人があこがれる、魅力ある国ですが、このように光と闇の部分を併せ持っていると言えます。
時代や社会と関連づけて文章を読むと?
文学作品に限らず、冒頭のような手紙や日記、歌謡曲の歌詞、広告のキャッチコピーなど、あらゆる文章は、文化の中にあって、ほかの文章と互いに影響し合っているばかりではなく、時代や社会と深い関わりを持っています。
個人が意図してつくる「表現」の探求も興味深いですが、時代や社会と密接に関わり合った「表象」を研究することで、新たに見えてくるものがあります。時代や社会と関連づけて文章を読み解くことで、書かれた言葉ひとつひとつが光を放ってくるのです。
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先生情報 / 大学情報
椙山女学園大学 外国語学部 国際教養学科 ※2024年4月開設 教授 田所 光男 先生
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