ひげの仮面を着ける女性たち 中東の伝統文化とは?
湾岸地域の女性の身分証明書とは?
日本では、学生には学生証、社会人にはパスポートや運転免許証などの身分証明書があります。中東のペルシャ湾沿岸地域、特にアラビア半島では、遠くから見ると口ひげのような布製の「仮面」が女性の身分証明書のようなはたらきをすることがあります。仮面にはその人が未婚/既婚や、出身の村、宗派、家業、子どもの数などがマークやデザインとして施されています。男女が隔離されているイスラーム教社会では、知らない男女間で気軽に会話ができないので、見るだけでその人のプロフィールがわかるツールになっているのです。
仮面は自分のアイデンティティ
最初に女性が仮面を着けるタイミングは、初潮を迎えた時か結婚する時です。現在、主に着用しているのは50歳以上の女性で、彼女たちは近い血縁者以外の男性の前では決して仮面は取らず、家の中でも、入浴する時・寝る時・神にお祈りする時以外はほとんど取りません。ただし、それは女性が髪を隠すヒジャブの習慣のように、イスラーム教の教えにのっとったものではないといいます。昔は高貴な女性のみが仮面を着けることができる習慣があったりと、地域の伝統文化として誇りを持って着けているのです。日本の女性が伝統文化として着物を着るのと同じように、仮面は彼女たちのアイデンティティとしての意味合いを持っています。
女性の美を際立たせる仮面
また仮面には、ファッションやメイクの一部として女性の美を際立たせる効果もあります。仮面は藍染めの布で作られていて、藍には保湿効果、美白効果があるとされています。さらに仮面はオーダーメイドなので、華やかなデザイン、その人の長所を引き立たせて短所を隠すデザインにもできます。年配の女性はシミやソバカスを隠すために、大きめの仮面を着用したりします。
しかし、現代の若年層はあまり仮面を着けていません。そこで仮面をビーズでデコレーションしたり、人気キャラクターをデザインにいかしてみたり、次世代へ仮面文化を継承してもらうための取り組みが始まっています。
※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。
※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。
先生情報 / 大学情報
秋田大学 国際資源学部 国際資源学科 資源政策コース 助教 後藤 真実 先生
興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!
文化人類学、民俗学、中東地域研究先生が目指すSDGs
先生への質問
- 先生の学問へのきっかけは?