放射線が当たると物質はどうなるのか
放射線の種類、透過力と遮蔽
2011年3月の福島第一原子力発電所の事故以来、放射線を浴びると人体はどうなるのかと、にわかに関心が高まっています。
放射線にはアルファ線、ベータ線、ガンマ線、X線、中性子線などがあります。アルファ線は紙に当たると止まりますが、ベータ線は紙を透過し、アルミニウムや薄い金属板で止まります。X線やガンマ線を止めるには、鉛や厚い鉄板が、中性子線の遮蔽には大量の水やコンクリートが必要です。
物質の中で、何が起きているのか
物質中を放射線が透過するとき、物質はどうなるのでしょうか。物質とは、原子や分子が無数にあり、それらが化学結合している状態です。
放射線は、物質中の原子から電子をはぎ取り(電離)または揺さぶり(励起)、電子に運動エネルギーを受け渡して、その分減速します。弾かれた電子は、二次電子としてさらに別の原子を電離します。電子をはぎ取られた原子や分子は正イオンや、化学結合が切れて反応性の高いラジカルとなります。イオンは、やがて電子と再結合するときにX線を出します。さらにさまざまな反応が連鎖的に起こり、膨大な数の原子・分子に影響を与えます。
人体を透過するときも同じ
人体でも同じように考えられます。とりわけ問題なのがDNAの損傷による発がんリスクです。人間は100ミリシーベルトの放射線を浴びたとき、発がん致死率が人口比で0.5%上昇すると言われています。100ミリシーベルト以下については、有意差は確認されていませんが、放射線を浴びる量は「合理的な範囲でできるだけ少ないことが望ましい」のです。
しかし、自然界には一定程度の放射線が、もとから存在していることも事実です。さらに、医療被ばくとして、CT検査では1回に約7ミリシーベルトの放射線を浴びます。日本人が1年で浴びる放射線量は平均2.1ミリシーベルトですから、決して少ない量ではないでしょう。
福島原発の事故のあと、日本で暮らす私たちは、こうした科学的な知識にのっとり、自らの判断で冷静に行動することが求められています。
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