水を知り、コントロールすることで地域を水害から守る
ため池の氾濫を防ぐ
集中豪雨による水害が毎年のように起こっています。氾濫のリスクは川だけでなくため池にもあります。ため池は全国に20万以上もあり、大雨が予想されると管理者が取水栓を開けて放水し、氾濫を防いでいます。しかし、それだけでは追い付かないほどの大雨に備えて、ため池の「緊急放流装置」が開発されました。これは、もともとため池の水を排出する際の水流を使って発電する研究を応用したもので、サイフォン管という設備を余水吐(よすいばき:水を排出する部分)と別に設けることで、排水量を増やす仕組みです。
氾濫をシミュレーションする仕組み
緊急放流装置でも足りず、ため池が溢れるケースに備えて開発されたのが「早期警報システム」です。これは、ため池に設置した水を感知するセンサーによって、ため池の水位が一定の基準を超えた際に周辺住民にメールや警告灯で危険を知らせる仕組みです。この基準水位の設定には、水理計算という手法が用いられています。これにより、雨が降ったときにどれくらいの量の水がため池に流れ込み、水位が上昇するのかを秒単位でシミュレーションすることができ、避難が必要なのか、いつ避難すればいいのかを、判断し警告することができます。
水を専門とする学問
ため池の水位は、低いほど氾濫の危険性は減りますが、本来は農業に使う水ですから、むやみに減らすこともできません。そこで、放水量の目安となる「水位管理曲線」が作られました。その地域で行われる稲作(灌漑)に必要な水の総量を計算し、稲作が終わる時期から逆算することで、どの時期にどの程度の量の水がため池にたまっていれば灌漑に影響がないのかがわかるものです。大雨に備えてどの程度水位を下げるかは、ため池の管理者の判断に委ねられていましたが、これで放水の基準が明確になります。
このように、水の流れや量、農業に必要な水を正確に知るために役立てられている学問を水文(すいもん)学や水理学、灌漑工学といい、地域の防災や減災にも大きく貢献しています。
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先生情報 / 大学情報
鳥取大学 農学部 生命環境農学科 国際乾燥地科学コース 教授 清水 克之 先生
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水文学、水理学、灌漑工学先生が目指すSDGs
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