大気中に漂う水銀、環境科学の視点でその現状と環境リスクを探る

大気中にも漂う水銀
甚大な被害をもたらした公害病の一つに水俣病があります。水俣病は工場排水に由来する水銀に汚染された魚介類を人が摂取したことで発生しました。水銀はその有用性から有史以来利用されてきましたが、ごく微量でも生態に悪影響をもたらします。2017年には「水銀に関する水俣条約」が発効され、水銀の使用や排出規制が進んでいます。水銀は金属のなかで唯一、常温で液体です。大気中にもそのほとんどがガス状の金属水銀として存在します。
水銀を用いた金製錬は人為排出源の一つ
水銀の人為的発生源は、化石燃料の燃焼、水銀を用いた金の製錬 (Artisanal Small-scale Gold Mining:ASGM、小規模金採掘) などです。ASGM活動では水銀が安価なため使用されています。インドネシアのある地区では、鉱石を砕き、水銀、水を混ぜたものを混合、水銀が金などの金属と合金 (アマルガム) を作りやすい性質を利用して金を製錬しています。このアマルガムをバーナーであぶり、素金を得ます。ASGMは家族単位といった規模で行われ、年間で 日本円にして600万円ほど (2016年当時) 稼ぐ人もいます。一獲千金に見えますが、周囲の大気、水、土壌は非常に汚染されています。精錬過程では大気中にとんでもない濃度の水銀が放出されますので、現地の作業者への健康リスクも高いのですが、貧困問題などとも密接に関わり、簡単に規制が進まない問題も抱えています。
世界規模の喫緊の課題
いったん大気へと放出された水銀は大気中で1年程度漂い全球を巡ります。火山や森林火災などの自然発生源、そしてASGMなどの人為発生源から放出された水銀は、例えば極地・山岳地域など「水銀汚染が近くにない」場所へも運ばれます。また、近年の気候変動は、北極域でその影響が顕著であることが指摘されています。北極圏の氷河や永久凍土の融解・崩壊に伴って、長期にわたりそれらの場所で保存されていた水銀の移動が起こるのではないかと懸念されています。
参考資料
※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。
※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。
先生情報 / 大学情報

富山県立大学工学部 環境・社会基盤工学科 准教授中澤 暦 先生
興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!
環境科学、環境リスク学、開発学先生への質問
- 先生の学問へのきっかけは?
- 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?