人類の知性と可能性を広げる超伝導基礎研究の底力
地道な研究が必要
超伝導とは、ある温度を下回ると物質の電気抵抗がゼロになる現象で、医療機関で使われるMRIや電気を送る電線、リニアモーターカーなどに応用されています。これまで多くの研究者が超伝導状態にできる物質を発見してきましたが、超伝導になる物質を予測することは難しく、物質を一つひとつ実験して検証する必要があります。具体的には、物質を絶対零度付近まで冷却し、電気抵抗を測ったり、マイスナー効果といって磁束密度が0になる(磁場を押し出す)性質を測定するなど、超伝導と認められる条件を満たすかを調べます。
新超伝導体発見のインパクト
1986年、銅の酸化物が超伝導状態になることが発見され、超伝導物質の幅を飛躍的に広げました。これは、地道な実験の繰り返しである基礎研究が、応用分野も含めその後の研究を一変させ得る好例といえます。また、最近の研究で「アンチペロブスカイト型酸化物」が超伝導体になることが発見されました。これは2種類の金属と酸素の化合物であるペロブスカイト型酸化物というありふれた物質の金属と酸素の位置をひっくりかえしたような物質で、通常はプラスイオンになりたがる金属が、マイナスのイオン状態になるというユニークな性質をもっています。これが超伝導状態になることで、思いもよらない現象が起こるかもしれません。
ネマティック超伝導の発見
新たな超伝導体の発見と同じく、超伝導の新たな現象を見つけるのも重要な研究です。近年発見された「ネマティック超伝導」もその一例です。ネマティックとはもともと液晶の分野で使われる言葉で、流動性を持つ分子がある方向を向くことで液体の中に特別な方向が生まれる現象です。これを「回転対称性の破れ」と呼びますが、同様の現象が超伝導状態にも起こることが発見されました。超伝導物質内では、電子がペアを組みますが、このペアが特定の方向を向くことがわかったのです。100年を超える超伝導研究の中でも、初の発見であり、量子計算を含め、さまざまな分野への応用も期待されています。
※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。
※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。
先生情報 / 大学情報
京都大学 理学部 物理学・宇宙物理学専攻 准教授 米澤 進吾 先生
興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!
物理学、物性物理学、材料科学先生が目指すSDGs
先生への質問
- 先生の学問へのきっかけは?
- 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?