地域によって生態が違うカブトムシのヒミツ
角が大きい方がいいはずなのに
昆虫の中でも、子どもたちに大人気のカブトムシですが、実は、地域によって角の大きさが違います。鹿児島県の屋久島や長崎県の福江島に生息するカブトムシは、他の地域のものより角が短いのです。オスにだけあるカブトムシの角は、けんかをしてライバルのオスを追いやって、えさやメスを獲得するためのものです。ですから、大きく長い方が優位なように思われますが、なぜ屋久島や福江島のカブトムシの角は短いのでしょうか。
島のカブトムシの角が短いわけは?
これには、体が大きいとカラスやタヌキなどの天敵に狙われやすいのではないか、あるいは角が小さいと、エネルギーが他の部位に蓄えられてより長生きできるのではないか、といった仮説が立てられます。そこで、天敵に襲われたカブトムシの残骸の解析や、島と本州の環境の違いの比較などを行いました。その結果、まだ理由は明らかになっていませんが、天敵の密度の違いやえさ場の状況、けんかの頻度など、島特有の環境が影響しているのではないかということがわかってきています。
地域によって幼虫の成長スピードも変わる
また、地域によってカブトムシの幼虫の成長スピードが異なることもわかっています。通常、ふ化したときに40ミリグラム程度のカブトムシの幼虫は、たった1~2カ月で30グラムまで成長しますが、台湾や沖縄など南国のカブトムシの成長はもっとゆるやかなのです。そこで立てられた仮説が、寒い地域では冬の間に成長できないために、寒くなるまでの期間に急速に大きくなるのではないか、早く大きくなるのは寒さを乗り越えるのに有利にする戦略なのではないか、というものです。実際に青森から台湾まで緯度の違う地域でカブトムシをサンプリングし、同じ環境で飼育してみると、緯度が低くなるほど成長が遅いという仮説通りの結果となりました。このように、地域内での生態や環境の変化に注目しながら昆虫の生態や進化を解明していくのが、昆虫生態学です。
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先生情報 / 大学情報
山口大学 理学部 生物学科 助教 小島 渉 先生
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