講義No.14123 生物学

抗生物質が効かない! 細菌の耐性変異を回避するには

抗生物質が効かない! 細菌の耐性変異を回避するには

抗生物質に対抗して変異する菌

人や動物が病気になる原因の一つに「細菌」があります。例えば、食べ物と一緒に口から体内に入り、食中毒を引き起こす菌として「サルモネラ菌」や「カンピロバクター」などがよく知られています。これらの菌による感染症の治療薬に抗生物質(抗菌薬)がありますが、近年、抗生物質に対抗して耐性を持つ「耐性菌」が現れて問題となっています。耐性菌は抗生物質に対抗して自らの遺伝子を変化させているため、従来の抗生物質が効きにくくなり、さらに強い抗生物質が必要となります。しかし、菌もそれに対抗してさらに耐性変異を繰り返すため、菌に対する薬剤の有効性は年々低下しています。2050年頃には、耐性菌による死亡率はがんを超えるともいわれています。

薬剤耐性菌の身近な危険性

耐性菌の検査方法は、人や家畜の場合と、肉や野菜などの食品に対してもほぼ同様です。例えば人や動物に病変が見つかった場合は、そのふん尿や組織の一部を採取して病の原因となる菌を特定します。さらに、その菌を培養して、抗生物質の濃度を変えながら薬剤に対する菌の感受性を調査します。一般に流通している鶏肉などにもかなりの割合で耐性菌が確認されていますが、十分に加熱をすれば食用に問題はありません。しかし、調理に使用した包丁やまな板の洗浄が不十分だと、加熱しない別の食材に菌が付着して、そこから感染するケースも多いため注意が必要です。

遺伝子調査で菌の変異を抑える

長年の研究により、菌が耐性変異を獲得するメカニズムは解明に近づいています。さらに、複数の遺伝子配列を同時に解析できる次世代シーケンサーを用いることで、抗生物質が菌の遺伝子変異に与える影響も詳細に調査できるようになりました。菌が変異する仕組みが詳しく解明されれば、新しい薬剤の開発や既存の薬剤の改良に繋がる治療ターゲットを発見することもできます。今後の研究と技術の進展により、耐性菌に対する新しい治療法や予防策がさらに発展し、感染症の制御に大きく貢献することが期待されます。

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先生情報 / 大学情報

麻布大学 生命・環境科学部 臨床検査技術学科 助教 香川 成人 先生

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臨床微生物学、環境微生物学

先生が目指すSDGs

メッセージ

私は高校時代に訪れたオープンキャンパスをきっかけに、臨床検査技師の世界に進みました。それまでは漠然と将来は人の役に立ちたいという気持ちをもっていましたが、進路についてはしっかりと定まっていませんでした。もし、あなたがまだ進みたい道がわからないのであれば、抽象的でよいので「どんな風に生きたいか」を探ってみるとよいでしょう。そうすることで、出会った人や見えているもののすべてがそれに結びつき、意味を持ち始め、その結果として自分の進路が見えてくることがあります。

麻布大学に関心を持ったあなたは

はじまりは1890年に開設した東京獣医講習所でした。
まだ栄養状態が豊かでなかったこの国の、人の生活を豊かにするため、畜産の発展に寄与するため獣医師の養成をはじめました。それから約130年の時を経て、人の社会と動物のかかわりは深くなり、複雑になり、生きものすべてが新しいバランスで循環する「いのちのあしたのあり方」が求められています。
これが私たちの目指す「地球共生系」です。
最先端の研究と確かな実践力で、「人と動物と環境」に向き合い、地球のあしたをつくる。これが私たち麻布大学です。