髪は毎日洗うもの? 洗髪の歴史から考える患者に寄り添ったケア
看護と洗髪
看護においては、病気や傷の手当と同じく患者さんの髪を洗うことも重要なケアの一つです。髪や頭皮を衛生的にすることで感染症を予防したり、清潔になることで心理的な充足を得たり、他人と関わろうとする社会性を保つ意欲にもつながります。だからといって、患者さんの髪を毎日洗うことが最適な看護とは限りません。洗髪は数日に1度で十分と感じるお年寄りや、毎日シャンプーする習慣のない国からきた外国の患者さんをケアするケースも多くあり、洗髪においても個別の考えや習慣が尊重される必要があるからです。
日本の洗髪の歴史
日本人は風呂好き、きれい好きとされていますが、現代のように毎日髪を洗うようになったのはそう遠い昔ではありません。平安貴族の女性は、長くて黒い髪が美の象徴とされ、髪に神が宿るという考えをもっていました。そのため、髪を洗うことが儀式的な意味合いをもち、洗髪は年に数回ほどでした。庶民の洗髪の記録が残っているのは江戸時代以降ですが、当時から毎日お風呂(銭湯)に入る習慣はあったものの、洗髪は別物と考えられており、明治時代以降も多くても月に数回に限られていました。明治後期から女性は丈夫な子どもをたくさん産み育てるために衛生面に気を配るようになったことなどが影響し、洗髪する回数が少しずつ増えていきました。
価値観と背景を知る意義
髪の手入れの仕方も時代によって異なります。現代女性が憧れる、サラサラと風になびくようなヘアスタイルを維持するためには、毎日シャンプーする必要があるかもしれません。しかし、日本では黒くてしっとりとした長髪で結われた日本髪が良妻賢母の象徴とされ、髪を洗うよりも、櫛(くし)で丁寧にすくことが手入れの中心でした。昔は、ふのりとうどん粉で髪を洗っていましたが、それが石鹸、シャンプーへと変わっていったのです。こうした経緯をもつ洗髪の歴史や、髪に対する価値観の変遷を知っておくことは、多様な価値観や背景をもつ患者さんに寄り添ったケアを行うためにも、大きな意義があります。
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先生情報 / 大学情報
四條畷学園大学 看護学部 看護学科 准教授 横山 友子 先生
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