なぜ葉緑体は細胞内で動くの? 植物の適応力の不思議
葉緑体は環境の変化に応じて移動する
植物の細胞内にある「葉緑体」は、光合成を行って植物の成長に必要な栄養をつくり出しています。実は、この葉緑体は細胞内部を移動します。植物細胞は、さまざまな環境の変化を感じとると、細胞の中で葉緑体を動かすことができるのです。例えば光が弱い環境の場合、細胞は光合成をたくさん行えるように細胞の表面に葉緑体を移動させます。一方で、光が強い環境の場合は、光によるダメージを受けにくい細胞の側面に葉緑体を移動させます。このように、葉緑体が細胞内で移動する現象を「葉緑体運動」と言います。
光や温度の変化が葉緑体運動に影響
光の変化によって葉緑体運動が起こるのは160年以上前から知られていましたが、近年、複数の植物種において、同じような現象が温度の変化でも起こることがわかってきました。例えば、光が弱い、20℃前後の温かい環境で植物を育てると、葉緑体は光合成量を増やすために細胞の表面に配置されます。しかしその植物を0℃前後の寒い場所に移すと、葉緑体は細胞の表面から側面に移動するのです。この現象を「葉緑体の寒冷逃避反応」と言います。温度の低い環境で葉緑体がこのような動きをするのは、寒い冬を乗り越えたり、低い温度で生き抜いたりするために必要だからなのではないかと考えられます。
植物は光と温度を同時に検知している
ところで、植物は光や温度の変化をどのように感じとっているのでしょうか。植物は赤色の光を感知する「フィトクロム」や、青色の光を感知する「フォトトロピン」というタンパク質を含んでおり、これらが光だけでなく温度を感知するセンサとしても働いていることがわかっています。つまり植物は、光を感知するセンサで温度も同時に認識しているのです。近年の研究で、植物の光センサと温度センサの関係が少しずつ明らかになってきました。この知見を利用して、将来的にはハウス栽培で農作物をより効率的に育てることなどが期待されています。
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宇都宮大学 農学部 バイオサイエンス教育研究センター 教授 児玉 豊 先生
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