記憶に残る風景をつくる~過去と未来をつないできた建築の役割~
風景と建築
あなたの記憶に残る風景はどんな風景ですか? 人気の観光スポットや自然がつくる絶景などは、一般的な意味で記憶に残りやすいといえますが、そこに「あなたの」がつくと、答えは違ってくるはずです。自宅の食卓に差し込む日差しや、街中にあった白くて大きな教会、毎日見ていた山など、さまざまな風景があり、そこにいる自分もまた風景をつくる一つの要素といえます。建築や街をデザインするということは、便利さや見た目の美しさ、にぎわいといった機能をつくるだけでなく、そこに暮らす人や訪れる人の記憶に残る風景をつくるということでもあるのです。
風景の見え方が変わる
人の記憶と密接に関係する風景は、過去形で語られやすいものです。一方、ギリシャの神殿やピラミッド、法隆寺が造られたはるか昔から、建物を造るということは、まだそこに現れていないもの=未来をつくる行為であったともいえます。多くの予算と資材、労力を使ってつくられた未来が、やがてそこを訪れる人、住む人の記憶をつくっていきます。「風景と記憶」という視点で自分の地元や、旅行先の街を見てみると、思いもよらない発見ができるはずです。
人々の記憶が街の価値を掘り起こす
風景の記憶は、街や建物の価値にも密接に関係しています。例えば、多くのオフィスや官公庁が立ち並ぶ街を、Instagramのような写真投稿型SNSで検索してみると、ステレオタイプな街のイメージとは異なる写真が投稿されていることがわかります。古びた路地や若者向けのカフェ、子どもたちが遊ぶ公園など、人それぞれの価値観によって街の風景が切り取られており、その街をつくった人や、そこにある建物をデザインした人たちが思いもしなかった風景もたくさんあるはずです。投稿する人たちが無意識に行っているこうした行為によって、街の隠れた魅力や価値がどんどん掘り起こされています。こうした魅力や価値をいかに取り込んでいくかが、今後の建築デザインにとっても大切な意味を持っています。
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先生情報 / 大学情報
神戸大学 工学部 建築学科 教授 槻橋 修 先生
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