講義No.10389 日本文学

金子みすゞの作品を通して考える、文学の「正しい」読み方

金子みすゞの作品を通して考える、文学の「正しい」読み方

私と小鳥と鈴と

「私が両手をひろげても、/お空はちっとも飛べないが、/飛べる小鳥は私のように、/地面(じべた)を速くは走れない。//私がからだをゆすっても、/きれいな音は出ないけど、/あの鳴る鈴は私のように/たくさんな唄は知らないよ。//鈴と、小鳥と、それから私、/みんなちがって、みんないい。」
金子みすゞの「私と小鳥と鈴と」という詩で、小学校の国語教科書にも掲載されています。「みんな」の個性を尊重する詩として知られていますが、その解釈だけが正解なのでしょうか。この詩では、第一連では私と小鳥の、第二連では私と鈴の違いが描かれますが、どちらも「私が」で始まります。小鳥と鈴の違いには触れることなく第三連に入り、そこでも「私」の前に「それから」が付いて「私」が強調され、「いい」と肯定して終わります。

金子みすゞの生涯と人柄

金子みすゞは明治時代の山口県生まれの童謡詩人。幼い頃に父を亡くし、夫の女性問題に悩まされ、26歳で自ら命を絶ちました。短期間に500編余りの作品を残しましたが、ほとんどの作品は生前には発表されず、1980年代以降に再評価されるようになりました。その生涯から、みすゞは「か弱く薄幸な女性詩人」であり、逆境のなかで、他者への優しさや温かさを感じさせる作品を書いたとされています。しかし「私と小鳥と鈴と」からは懸命に自分の個性を認め、肯定しようとする強い自己主張も読み取ることができます。

詩の「正しい」読み方とは

この作品以外にも、みすゞの自己主張は随所に見られ、時には人間や社会の闇をえぐるような作品も残しています。「優しさや温かさ」といったわかりやすい評価に収まらない詩人であり、今後も多くの読者の多様な解釈を引き出しながら、読みつがれていくと思います。教科書に掲載される詩や小説は、あらかじめ「読み方の正解」が決められてしまうこともあります。それには一定の意義もありますが、書かれた当時の時代背景や、他作品についての知識をつけて読みなおせば、新たな解釈を導くことができるのです。

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武蔵野大学 文学部 日本文学文化学科 教授 藤本 恵 先生

武蔵野大学 文学部 日本文学文化学科 教授 藤本 恵 先生

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児童文学、近現代文学

先生が目指すSDGs

メッセージ

漫画家の水木しげるさんは「今せずにいられないことをやろう」という言葉を残されました。しなければならないこと、するように言われたことだけに追われるのではなく、自分がせずにいられないことを大切にしてほしい、という言葉であると私は理解しています。
若い頃から「絶対にこれがやりたい!」とはっきり認識している人は少ないので、この言葉はあなたにとってプレッシャーになるかもしれません。それでも自分が「せずにいられない」と思える何かをつかむことは、人生においてとても大切なことだと考えています。

先生への質問

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2024年に100周年を迎えた武蔵野大学は、同年4月、ウェルビーイング学部ウェルビーイング学科を新設しました。2023年4月には、社会と環境をデザインし実現する、文理融合型の「サステナビリティ学科」を開設し、近年では、起業家精神を育成する「アントレプレナーシップ学科」や私立大学初の「データサイエンス学科」を新設。常に時代の変化を先取りし、13学部21学科の文・理・医療・情報系の総合大学へと発展・拡大を続けています。