「文学」は、価値観や意識を変える力を持っている!
地域と文学
地域と文学について考えるときに、虚構としての文学と現実の世界との関係性があります。地域の共同体には、ポジティブな地域づくりや町おこしだけではなく、ネガティブな人間関係もあります。例えば、吉村萬壱(まんいち)の『ボラード病』という作品は、ある地域の人間関係をテーマにしています。設定は架空の放射能汚染に襲われた町で、東日本大震災にともなう原子力発電所の事故をテーマにしていると思われます。
原発事故を通して見えてくる人間関係
この作品は、震災や原発事故からの復興が簡単でないことが、少女の目から見た視点で描かれていきます。地域の人々が結束して放射能汚染という困難を乗り切ろうとするのですが、子どもたちが次々に謎の病気で亡くなるのです。その原因を地域で追求しようとしても、住民たちの結束は実は表層的なものでしかなく、地域の閉鎖性やしがらみなどが原因となって謎が解明できない現実が描かれています。東日本大震災以降、地域の人間関係を描く文学が、ひとつのジャンルとして確立されつつあります。
自らの価値観と意識に向き合う
地域を描いた作品として沖縄文学もあります。沖縄は歴史的にも特異な地域で、戦争やアメリカとの関係などがあり、社会的なメッセージ色が強くなる傾向があります。芥川賞作家の目取真俊(めどるましゅん)は、両親の沖縄戦での実際の体験をテーマにした作品などで知られています。また沖縄には「本土」と違う方言があります。方言のままでは理解されないので、『面影(うむかじ)と(とぅ)連れて(ちりてぃ)』と、ルビで沖縄方言を入れて地域らしさや、沖縄の置かれた現実の姿を文学として表現しています。
単なるエンターテインメントではない東日本大震災以降の作品や沖縄文学は、どちらかというとマイナー文学と呼ばれています。しかしこれらの作品に接することで、自らの価値観や意識と向き合って考えたり、それを変えたりすることができます。文学を通して最良の経験をすることができるのです。
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先生情報 / 大学情報
鳥取大学 地域学部 地域学科 国際地域文化コース 准教授 岡村 知子 先生
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