詩から見えてくる古代ギリシア・ローマ時代の恋愛とは
恋愛詩はテクニック披露の場
恋愛の詩は古代ギリシアの時代からありましたが、紀元前1世紀後半のローマでは「恋愛エレゲイア詩」と呼ばれるジャンルが広く一般の人々からも人気を博していたようで、火山の噴火により埋もれたポンペイ遺跡の壁にも、エレゲイア詩の一節が落書きされていました。しかし、ただ心の赴くままに恋の言葉を綴(つづ)るのではなく、典拠となるギリシア・ラテンの文学作品や詩の言葉をほのめかして書くのがひとつのテクニックでした。そのため、本当の意味で詩の意図を理解するには、ギリシア文学など先行作品に関するある程度の知識が必要だったと考えられます。
古代ギリシア文学における恋愛
そもそも古代ギリシア文学においては、男性の恋心が真剣に扱われる例は少なく、喜劇の中に恋する若者が登場したり、「エピグラム(短詩)」の形で戯れの恋が常套的な表現にひねりを効かせて歌われる程度でした。トロイア戦争のように、女性を巡る争いは珍しくありませんが、それらは恋ゆえというよりも、英雄が女性を奪われ名誉を傷つけられたことから、戦争に発展するといった物語です。その一方で、女性の恋はギリシア悲劇やその後の叙事詩の中でもかなり大きく扱われています。文学に描かれる恋愛には歴然たる男女格差があったのです。
「恋する詩人」を演じきったカトゥッルス
そうした中、熱い恋心を前面に押し出した詩を書いたのが紀元前600年頃のギリシアの女流詩人サッポーでした。自分の恋心を堂々と歌えるのも女性だったからこそかもしれません。しかし、男性でありながら本気の恋を詩にしたのが、紀元前1世紀半ば頃のローマの詩人カトゥッルスです。ギリシア文学の場面や表現を下敷きに書かれることが多いラテン文学ですが、カトゥッルスはサッポーの詩を翻案し、レスビアという女性への恋心を形にしました。こうして、真剣な恋は女性だけのものではなくなり、作品の中で「恋する詩人」という役回りを見事に演じきったカトゥッルスは、次の世代の「恋愛エレゲイア詩」の先駆けとなるのです。
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先生情報 / 大学情報
東京都立大学 人文社会学部 人文学科 教授 大芝 芳弘 先生
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